最新記事

宇宙

宇宙にまき散らされたスペース・デブリ、中国が「凧あげ」型の新装備で回収成功

China Uses Drag Sail to Clear Up Space Junk Successfully

2022年7月9日(土)14時24分
ジェシカ・トムソン
スペースデブリ

janiecbros-iStock

<凧のように広がって、空気抵抗を使うことでスペースデブリが地球の周回軌道から離脱するのを加速させることに成功したと中国が発表>

人類による宇宙開発が始まって以降、地球の周回軌道上には無数の人工物が漂うようになった。増え続けるこうしたスペースデブリ(宇宙ごみ)は稼働中の人工衛星などを脅かし、次なる宇宙開発を阻害する要因となっているが、この問題を解決する新たな可能性が示された。中国の宇宙科学者たちは最近、巨大なスペースセイル(帆)を使って地球の軌道上からスペースデブリを取り除く試みに成功したと発表した。

上海航天技術研究院(SAST)の7月6日の発表によれば、「長征2号」ロケットに搭載されていた巨大なセイルが展開され、軌道から離脱させることに成功したということだ。

このセイルは、直径が人間の髪の毛の10分の1という極めて薄い膜で出来ており、大きさは約25平方メートル。衛星の寿命が尽きると展開される仕組みとなっている。これが「凧」のような役割を果たし、軌道上に(薄いとはいえ)存在する大気による空気抵抗を使って「長征2号」の速度を低下させ、軌道から離脱して大気圏に再突入させるよう促進する。

■【写真】凧や帆のように空気抵抗を受けて衛星を減速させるセイル

工学分野のニュースを専門に扱うウェブサイト「Interesting Engineering」によれば、このセイルは安価で柔軟性があり、軽量な素材で出来ている。つまり生産が容易で、あらゆる形態のスペースデブリを軌道離脱させるのに使えるということだ。

現在、地球の周回軌道上には5000近い衛星があるが、このうち稼働中なのは約2000のみで、残りは「宇宙ごみ」に分類されている。ほかにも、より小規模なスペースデブリはNASAが追跡しているもので2万7000個にものぼり、これが地球低軌道を秒速7キロあまりという超高速で周回している。

デブリとの衝突が招く深刻な事態

今後さらなる衛星が軌道上に打ち上げられれば、これらのスペースデブリとの衝突の可能性が高まり、それによってまたデブリの数が大幅に増えることになる。2009年には、運用を終えたロシアの通信衛星がアメリカの商用衛星通信システム「イリジウム」と衝突。追跡可能な巨大なデブリ2300個に加えて、より小規模な無数のデブリがまき散らされた。

宇宙ごみは、将来の宇宙探査ミッションにおける危険な事故につながりかねない。遠く離れた宇宙空間に浮かんでいる小さなごみが、大きな問題を引き起こすとは考えにくいかもしれないが、2022年3月には、宇宙を超高速で漂流していた中国のロケットの残骸が、月面に衝突するという事態が発生した。これが月面ではなく国際宇宙ステーション(ISS)に衝突していたら、大惨事を引き起こしていた可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中