最新記事

選挙

選挙報道、このままでいいのか?──踏み込んだ人物評がなくては選べない

2022年7月4日(月)08時05分
山本昭宏(神戸市外国語大学総合文化コース准教授)

「斜陽」だからこそ内容の変化を

報道各社の調査と予測報道について述べてきたが、各候補者の報道はどうだろうか。これは改善の余地があると断言できる。かつて丸谷才一は次のように述べた。

「日本の政治家の話し方は聞いててつまらない。民主政治は言葉によって成立するものであって、言葉以外のなにものでも成立しない」(*3)

当たり前ではあるが、決して忘れるべきではない指摘だ。丸谷に倣(なら)って言えば、選挙報道もまた「言葉以外のなにものでも成立しない」。それなのに、紋切り型が並ぶ。

各候補者の主張について、政党の政見をそのままなぞった整理をされても、読者はつまらない。中立性を意識せざるを得ないのは理解できるが、もう少し踏み込んで欲しい。

候補者の顔はよく見えている。紙面に均質に並べられた顔写真やベニヤ板に貼られたポスターで、候補者がどんな顔をしているのか、よくわかる。しかし、その人がどんな人なのか、全然わからない。演説を聴きに行けば、多少なりとも人柄は伝わるが、演説をしっかり聞く人はそうは多くないし、熱心な支持者が候補者の主張を「確認」しに行く場になっている。

そこに、新聞や雑誌の出番がある。記者やジャーナリストたちが、候補者個人を取材し、踏み込んだ人物評を載せるべきではないか。さらに、これまで国会で何ができたのか、できなかったのかもチェックして、もっとわかりやすく書くべきだろう。

これは、地方版や地方在住のジャーナリストの腕の見せどころであるはずだ。とにかく、現状では、一人ひとりの候補者の人物や考え方を知る手掛かりがあまりに限られている。

新聞や雑誌ならば人物にアプローチした記事を書ける。仮に選挙が「お祭り」だとすれば、その機をうまく捉えて、活字媒体(およびそのネット配信)の活性化を図るべきではないだろうか。

報道各社は「DXでマネタイズ」に追われているようにみえる。記者やジャーナリストが「本業」に割くことのできる労力は削られつつある。しかし、肝心のコンテンツが弱ってはジャーナリズムの自滅である。政治もしかり。候補者と有権者の距離が広がって「そもそもあなたは誰ですか?」という状態になれば、政治の空洞化が進むだけだろう。

[注]
(*1)総務省HP「国政選挙における年代別投票率について」
 https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/
(*2)松本正生「巻頭言」『政策と調査』埼玉大学社会調査研究センター、第22号、2022年3月
 http://ssrc-saitama.jp/content/files/PDF/PR_No.22_Foreword.pdf
(*3)猪口邦子・黒岩徹・丸谷才一「選挙報道はテレビと新聞のお祭り」『東京人』第144号、1999年9月、93頁。

[筆者]
山本昭宏
神戸市外国語大学総合文化コース准教授。1984年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。専門はメディア文化史・歴史社会学。著書に『核エネルギー言説の戦後史1945~1960──「被爆の記憶」と「原子力の夢」』(人文書院)、『教養としての戦後〈平和論〉』(イースト・プレス)、『原子力の精神史──〈核〉と日本の現在地』(集英社新書)、『戦後民主主義──現代日本を創った思想と文化』(中公新書)などがある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

東南アジアの洪水、死者241人に 救助・復旧活動急

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る

ビジネス

ユーロ圏の消費者インフレ期待、総じて安定 ECB調

ビジネス

アングル:日銀利上げ、織り込み進めば株価影響は限定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中