最新記事

歴史問題

ベルギー名産品チョコレートと植民地支配──現国王の謝罪、今後の役割とは?

RESTITUTION FOR THE CONGO

2022年6月23日(木)17時41分
ハワード・フレンチ(コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授、元ニューヨーク・タイムズのアフリカ特派員)

220628p56_BTC_02.jpg

コンゴなど旧植民地から収奪した文化財を数多く収蔵する王立中央アフリカ博物館 YVES HERMANーREUTERS

博物館は近年、拡張しリニューアルされたが、もともとのひんしゅくを買う設立趣旨の名残をとどめている。コンゴで命を落とした1000人ほどのベルギー人の名前が刻まれた壁はあるのに、彼らの野望を満たすために犠牲になったアフリカ人が桁違いに多いことには触れられていない。壁に彫られた彫像が部分的かつ巧みに隠されている場所もある。

ここには「ベルギーがコンゴに文明をもたらす」とか「ベルギーがコンゴに安全をもたらす」といったかつてのスローガンが彫られているのだ。

王立中央アフリカ博物館は彫像や仮面や絵画といったアフリカの文化財を多数、収蔵している。アフリカ諸国をはじめとするかつての植民地では、西側の帝国主義統治の下で文化財が盗まれたり不当に安く買いたたかれたりした。

こうした品々は今、本来の所有者であるアフリカの人々の手の届かない、遠くの博物館の展示ケースや倉庫の中にある。元植民地の国々は、これら文化財の返還を求める戦いを繰り広げている。

王立中央アフリカ博物館に言わせれば、コンゴに文化財を返還する用意はあるものの、貴重な品々を適切に保管する環境が整っていないという理由からコンゴ政府のほうが時間的猶予を求めているという。それならば、環境整備を手伝うことがベルギーの道義的義務ではないだろうか。

歴史的「負債」がない中国

オランダの研究者で、著書『不都合な遺産──オランダとベルギーにおける植民地コレクションと返還』を近く出版するヨス・ファン・ビュールデンによれば、ベルギーは旧植民地のコンゴやルワンダ、ブルンジからの求めに応じて文化財を返還する義務を認めてはいる。だがその対象は国家が保有するものに限られており、民間の博物館やルーベン・カトリック大学あるいは個人が所有するものには及ばないという。

ベルギーによる植民地経営はろくなものではなかったが、そもそもベルギーのような小国に、コンゴのような広大な領地をコンゴ側にも利益をもたらすような形で植民地化する力はなかった。現代においても同様に、コンゴの未来を明るい方向へと大きく動かすにはベルギーは小さすぎる。

ベルギーにやれること、そしてすべきことは、外交努力によってコンゴ再建計画への欧米諸国や国際機関の支援を取り付けることだ。1884~85年のベルリン会議で、アフリカ分割に向けてベルギーが中心的な役割を果たしたように。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中