最新記事

沖縄の論点

沖縄の少女たちの経験は日本の若い女性に起きているさまざまなことの濃縮版

LIVING WITH DESPAIR

2022年6月23日(木)11時25分
上間陽子(琉球大学教育学研究科教授)

琉球大学での職を得て2006年に沖縄に帰ってきたが、何年かは東京の調査や国際比較調査を行い、沖縄の調査はやっていなかった。言葉も分かるし土地勘もあるから、沖縄の調査、特に女の子たちの調査をしたらいいと言われていたけど、「地元は売らない」って決めていたので。

でも2010年に女子中学生が19歳の少年に集団レイプされ、自死する事件が起きた。そのとき女の子たちの現実をちゃんと知って、伝えるために「沖縄で調査をやろう」と決めたんです。2011年から風俗店のオーナーたちにインタビューし、2012年から彼らが紹介してくれた従業員の女の子たちに話を聞くようになった。

その後、彼女たちの話を『裸足で逃げる』に書きましたが、それは2016年にうるま市の島袋里奈さん(20)が元海兵隊で米軍属の男に暴行・殺害された事件があったからです。

東京でも沖縄でも、調査でレイプの話は聞いていたけど「書けない」と思っていた。若い子+性暴力みたいなことが社会でポルノっぽく消費されるのにどうあらがえばいいのか考え、私の力量では書けない、と。

でも島袋さんの遺体発見を伝えるニュースを見て、「沖縄の若い女の子がまた殺された」って娘の前で泣き叫んだほど衝撃を受け、私は自分の持ち場で何もしなかったのだと思いました。それで調査で出会った、集団レイプされた亜矢の原稿を書いた(『裸足で逃げる』収録)。そのときは発表するためじゃなくて、亜矢に読ませたくて。自分が女の子たちの現実を書かなかったのは違っていたのかもしれない、被害者は亜矢だったかもしれない、でも亜矢は生きてくれているよね、と言いたかったんです。

母子支援行政の遅れ故に

私は今、普天間基地の近くに住んでいます。夫も研究者で、2人でちゃんと沖縄のことを「目撃しながら生きよう」って思ったから。でも首里から引っ越してすぐに後悔した。普天間の爆音は、私が育ったコザの街の爆音とは桁違い。100デシベルなんですよね。計測不能も年に数回はあって、「飛行機が落ちた」って思うくらい。母親になってからは、親のエゴで娘にとんでもないことに付き合わせちゃったとも感じている。

義理の妹が管制官です。私は5歳だった娘とこんな会話をしました。

「飛行機が落ちそうなくらい低く飛んでるって電話して。〇〇ねーねーの言うことなら飛行機聞くでしょ」

「〇〇の言うことを聞くのは白い飛行機で、灰色の飛行機は言うこと聞かないよ。電話しても、これは変わらないんだよ」

「じゃあ、誰が聞かせられる?」

「日本には、聞かせられる人はいないよ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スペイン、ドイツの輸出先トップ10に復帰へ 経済成

ビジネス

ノボノルディスク株が7.5%急騰、米当局が肥満症治

ワールド

ロシアがウクライナを大規模攻撃、3人死亡 各地で停

ビジネス

中国万科、最終的な債務再編まで何度も返済猶予か=ア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中