最新記事

北朝鮮

コロナ感染急増の北朝鮮で、新たな「謎の病」が流行 800世帯罹患、患者隔離

2022年6月24日(金)17時50分
青葉やまと

韓国はこのアウトブレイクへの支援を申し出ているが、北朝鮮側はこれに応じていない...... REUTERS

<詳細不明の腸の疾患が拡大し、金政権が封じ込めに当たっている>

新型コロナウイルスの感染が拡大中の北朝鮮で、コロナとはまた違う「謎の病気」が流行の兆しをみせている。国営メディアの朝鮮中央通信は6月16日以降、平壌の南120キロにある黄海南(ファンヘナム)道の海州(ヘジュ)市において、少なくとも800世帯で「深刻な腸の病のエピデミック」が発生したと報じた。金政権は医師団と疫学調査官を現地に派遣した。

韓国の聯合ニュースによると、病名は特定されていない。北朝鮮の金正恩総書記は「拡大を完全に抑制するため、よく練られた対策によって疑わしい症例者を隔離し、できる限り早い時期に」アウトブレイクを封じ込める必要があるとの認識を示している。この発言から、対策の中心を医療よりも隔離に頼る方針がうかがえる。

聯合ニュースは翌17日、「少なくとも2000人がこの病気に感染している可能性がある」と報じている。また、コロナのまん延と併せ、「ぜい弱な医療体制と恒久的な食糧不足で知られるこの貧しい国において、ウイルスのアウトブレイクによる影響に懸念が広がっている」と指摘した。

北朝鮮は「急性の腸の」アウトブレイクが発生したと発表するのみであり、具体的な病名を公表していない。米国営放送のボイス・オブ・アメリカは、「謎の胃腸の疫病」として報じた。一方、聯合ニュースは、「腸チフス、赤痢、コレラなどの感染症」の可能性があるとみている。こうした疫病は、ウイルスに汚染された食べ物または水の摂取、あるいは感染者の排泄物が主な感染源となる。慢性の下痢、発熱、胃けいれんなどの症状を呈し、適切な治療を受けられない場合は死亡に至るおそれがある。

コロナとの二重の戦い

今後の見通しは厳しい。米CNNは6月19日、「木曜(16日)に初めて報告されたこの新たなアウトブレイクは、長引く食糧不足とコロナ感染者増に見舞われるこの孤立したこの国に、さらなる負荷をかけるものである」と報じ、北朝鮮の厳しい状況を強調した。

ボイス・オブ・アメリカは、「北朝鮮政府は2つの強力な疫病のアウトブレイクに同時に対処するだけのリソースをもたないことが考えられる。そのため、この状況は同政府とって大きな難題となるおそれがある」とみる。韓国はこのアウトブレイクへの支援を申し出ているが、北朝鮮側はこれに応じていない。

北朝鮮保健当局は、「全住民の集中検査」を行うと発表した。当局は同時に、下水およびゴミの消毒に着手している。政府から派遣された「迅速診断治療チーム」が地元当局と連携し、アウトブレイクによって農作業が中断することのないよう対応を図るという。金正恩氏の妹および側近らは、医薬品を現地住民に寄贈した。英サン紙によると北朝鮮国営の朝鮮中央通信は、地域住民らが「薬を受け取ると泣き崩れた」と報じたという。薬の詳細や、必要とする住民に行き渡ったかどうかは不明だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾、警戒態勢維持 中国は演習終了 習氏「台湾統一

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.6万件減の19.9万件

ビジネス

医薬品メーカー、米国で350品目値上げ トランプ氏

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 10
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中