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インタビュー

「皇室フィクション小説」を書評が黙殺する理由

2022年5月27日(金)18時00分
長岡義博(本誌編集長)

――森さんは天皇制の本質って何だと思いますか?

森:空白です。その空白をみんなが求めた。空白だからこそ、自分の思う色に染めやすい。だから天皇って人によって違うんじゃないかなと思って。

――2・26事件の後、反乱軍の青年将校が、昭和天皇が自分たちの言い分を理解しなかったことに腹を立て、批判する証言が残されています。自分たちの考えるシステムが一番大事で、そこにいる天皇は自分たちが思う通りの天皇であってほしい、と。それは今も同じだと思います。

森:そうですね。

――夫婦の選択的別姓にすごく反発する人たちが、なぜあれほど強硬に反対するのかを考えたときに、父系社会や男系への強いこだわりがある。で、男系社会は一般的には権威主義国家と親和性が高い。自分が中心にあるシステムを変えたくない、変えられたくない。

森:国体という言葉自体が、そもそもは水戸学だけど、一般に使われるようになったのは明治以降です。歴史も伝統もないものが日本人の優越性の意識につながっている。ウトロ放火事件(注4)もそうですが、アジアへの蔑視がいまだにこれだけ残っている。自分たちが優秀な民族である、と考える一つの根拠が天皇制なのでしょう。

――イギリスは同じ島国で王室があって、と日本と似た国のつくりになっています。王室は「神」ではないからでしょうが、イギリス人は結構王室を笑います。客観視できている。

森:世界にはまだ王制が残っている国がたくさんある。ヨーロッパも多い。タイもそう。タイの国民の(王室への)敬慕は強い。それはいいのですが、それが理由で自由に議論できなくなるのがまずいと思います。特に日本の場合、近現代史を考える上で、天皇制は重要です。その自由な議論ができないまま民主主義を勝ち取るのは無理だと思います。

――皇室のゴシップをかなり過激に、おそらく根拠なく書くサイトがあります。戦前にも皇室のスキャンダルを報じることはあった。日本人は皇室各個人の話と天皇制システムそのものを切り分けて消費するのかもしれません。

森:(天皇制についての議論は)僕が子供の頃はもう少し緩やかだったな、という気がします。それがどんどん(自己規制が)強くなっている。強くなりながら、いびつじゃないですか。一方ではスキャンダルで消費する。ある意味、国の根幹である天皇制と国民の関係がねじれ始めているのかもしれません。

(注4)2021年8月、朝鮮半島出身者の子孫が暮らす京都府宇治市の「ウトロ地区」の住宅に22歳の男が火を着け、空き家など7棟が焼けた事件。民族蔑視に基づくヘイトクライムとされる。

千代田区一番一号のラビリンス
 森 達也
 現代書館

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