最新記事

ジェンダー格差

日本は能力よりもジェンダーで所得が決まる社会

2022年4月6日(水)11時00分
舞田敏彦(教育社会学者)
所得の男女差

50歳前後になると男女の所得格差は驚くほど拡大する Aleksei Naumov/iStock.

<男女別、学歴別の所得分布を見ると、日本では学歴の高い女性でも男性より所得レベルが大幅に低い>

日本は学歴社会と言われる。富や地位の配分に際して学歴がモノをいう社会で、どの国も発展と共にこの性格を強めていく。響きはよくないが、学歴は当人の能力や努力の所産でもあるので、前近代のように「生まれ」で人生が決まるのと比べたら公正なシステムと言える。

だが学歴とて、100%フェアな競争の結果ではない。上級学校、とりわけ有力大学への進学チャンスが家庭環境に左右されるのはすっかり知れ渡っている。またあからさまな世襲と違い、参加の機会が開かれた競争の結果なので、糾弾すべき不平等が隠蔽されやすい。「能力主義の衣をかぶった属性主義」という言い回しがあるが、まさに言い得て妙だ。

さらに、同じレベルの教育を終えていても待遇が大きく異なるケースは多々ある。たとえば正規雇用と非正規雇用の差が取り上げられることが多いが、性別による違いも非常に大きい。筆者の年齢層(40代後半)の大卒有業者を取り出し、年間所得の中央値を男女別に算出すると男性が654万円、女性が260万円となる(総務省『就業構造基本調査』2017年)。同年齢の大卒でも、女性の稼ぎは男性の半分に満たない。

これは40代後半の大卒男女の比較だが、データを増やすと驚くべき事実が露わになる。<図1>は、4つの学歴グループの所得中央値を年齢層別に出し、線でつないだグラフだ。

data220406-chart01.png

男性で見ても女性で見ても、所得の中央値は学歴が上がるほど高くなる。だが注目すべきは性差で、同じ学歴で比べても男女の差が甚だ大きく、年齢が上がるにつれてその差は開いていく。女性では昇給がない。折れ線の高さをみると、男性の中卒と女性の大卒がほぼ同じであることも分かる。

これは働き方の違いのためで、女性は家計補助のパート就労が多く、就労調整をして意図的に稼ぎを抑えている人も多い。だが好きでそうしている人ばかりではない。当初は正社員だったが結婚・出産等で離職を強いられ、後から復職を望んでも叶わない。数としてはこういう人が多数で、今の状況に満足している人は多くないのではないか。社会にとっては、女性の高度な能力を活用できていないことの表れでもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中