ロシア「経済制裁」は早くも効果が低下...この新たな「戦争の道具」に必要なルールとは
THE ART OF ECONOMIC WARFARE
通貨ルーブルの価値は一時急落したが(モスクワ、2月28日) PAVEL PAVLOVーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES
<経済制裁という新たな「武器」については、まだ効果や影響がどこまで及ぶか予測できないことが多いため、国際的なルール作りを急ぐ必要がある>
昔から経済は、戦争の武器として利用されてきた。だが今、経済のグローバル化により、この非暴力的な攻撃手段は前代未聞の威力を持つようになった。経済制裁や金融制裁は、爆弾ほどの即時的効果はないかもしれないが、長期的には壊滅的なインパクトを与える可能性がある。
この種の経済戦争は非常に新しい現象であり、その実態はまだ十分に理解されていないし、国際的なルールもほぼ存在しない。経済的な「武器」の一覧表もなければ、それらが引き起こす直接的および付随的なダメージの確かな推測も存在しない。
ロシアのプーチン大統領がウクライナに侵攻したとき、バイデン米大統領ら西側諸国のリーダーが、兵士ではなく制裁によってプーチンを封じ込め、核戦争へのエスカレートを阻止すると決断したのは正しい。
だが今、これらの国は、膨大なデータと情報に基づき制裁の効果を分析するという新たなタスクに直面している。同時に世界は、経済戦争に一定のルールを定める必要がある。
目下の懸念は、プーチンに打ち勝つためには、どのような経済制裁がより効果的か見極めることだ。というのも、ロシアを主要国との貿易や金融取引から排除する措置は、確かにロシア経済にダメージを与えてきたが、当初予想されたほどのレベルにはなっていない。
やがて別の買い手を見つけショックは薄れる
例えば、アメリカがロシア産原油の輸入を禁止すると報じられると、原油価格の国際指標である北海ブレント原油先物は、たちまち1バレル=140ドル近くに上昇。ロシアの通貨ルーブルも対ドルで急落したが、期待されたほどは下がらず、最近ではやや持ち直してさえいる。
理由は簡単だ。市場には複数の買い手と売り手が存在するから、大口購入者があるサプライヤーから商品を買わないと宣言すれば、当初は大きな衝撃が走るが、やがて別の購入者がそのサプライヤーからの買い付け量を増やすなどして、ショックは薄れていく。
それにロシアの場合、輸出が減っても、原油価格の急騰で最終的な石油収入はさほど減らないかもしれない。
制裁の効果を維持するためには、アメリカはロシアから石油を購入する第三国にも制裁を科す必要がある。アメリカはこの領域の「名人」であり、過去にはほとんど非倫理的な方法で弱小国を苦しめてきた。ニクソン米大統領は1974年、キューバと貿易をしているという理由で、飢饉の真っただ中にあったバングラデシュに対する食料援助を打ち切った。