最新記事

ロシア

ロシア「経済制裁」は早くも効果が低下...この新たな「戦争の道具」に必要なルールとは

THE ART OF ECONOMIC WARFARE

2022年4月5日(火)18時38分
カウシク・バス(コーネル大学教授)
ルーブル下落

通貨ルーブルの価値は一時急落したが(モスクワ、2月28日) PAVEL PAVLOVーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<経済制裁という新たな「武器」については、まだ効果や影響がどこまで及ぶか予測できないことが多いため、国際的なルール作りを急ぐ必要がある>

昔から経済は、戦争の武器として利用されてきた。だが今、経済のグローバル化により、この非暴力的な攻撃手段は前代未聞の威力を持つようになった。経済制裁や金融制裁は、爆弾ほどの即時的効果はないかもしれないが、長期的には壊滅的なインパクトを与える可能性がある。

この種の経済戦争は非常に新しい現象であり、その実態はまだ十分に理解されていないし、国際的なルールもほぼ存在しない。経済的な「武器」の一覧表もなければ、それらが引き起こす直接的および付随的なダメージの確かな推測も存在しない。

ロシアのプーチン大統領がウクライナに侵攻したとき、バイデン米大統領ら西側諸国のリーダーが、兵士ではなく制裁によってプーチンを封じ込め、核戦争へのエスカレートを阻止すると決断したのは正しい。

だが今、これらの国は、膨大なデータと情報に基づき制裁の効果を分析するという新たなタスクに直面している。同時に世界は、経済戦争に一定のルールを定める必要がある。

目下の懸念は、プーチンに打ち勝つためには、どのような経済制裁がより効果的か見極めることだ。というのも、ロシアを主要国との貿易や金融取引から排除する措置は、確かにロシア経済にダメージを与えてきたが、当初予想されたほどのレベルにはなっていない。

やがて別の買い手を見つけショックは薄れる

例えば、アメリカがロシア産原油の輸入を禁止すると報じられると、原油価格の国際指標である北海ブレント原油先物は、たちまち1バレル=140ドル近くに上昇。ロシアの通貨ルーブルも対ドルで急落したが、期待されたほどは下がらず、最近ではやや持ち直してさえいる。

理由は簡単だ。市場には複数の買い手と売り手が存在するから、大口購入者があるサプライヤーから商品を買わないと宣言すれば、当初は大きな衝撃が走るが、やがて別の購入者がそのサプライヤーからの買い付け量を増やすなどして、ショックは薄れていく。

それにロシアの場合、輸出が減っても、原油価格の急騰で最終的な石油収入はさほど減らないかもしれない。

制裁の効果を維持するためには、アメリカはロシアから石油を購入する第三国にも制裁を科す必要がある。アメリカはこの領域の「名人」であり、過去にはほとんど非倫理的な方法で弱小国を苦しめてきた。ニクソン米大統領は1974年、キューバと貿易をしているという理由で、飢饉の真っただ中にあったバングラデシュに対する食料援助を打ち切った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、12月速報値は改善 物価

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易・経済関係の発展促進で合

ワールド

NYタイムズ、パープレキシティAIを提訴 無断コピ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中