最新記事

米外交

アフガンに続きウクライナでも!現地職員を見捨てたアメリカ政府

Ukrainian Staff at U.S. Embassy, Left Behind, Say U.S. Is Backtracking on Promises of Support

2022年3月22日(火)13時35分
ロビー・グラマー(フォーリン・ポリシー誌記者)

キエフの米大使館の警護に当たっていた元海兵隊員が設立したNPOマウンテン・シード財団は、ウクライナ人職員とその家族を支援するため、クラウドファンディングの「ゴーファンドミー」で2万5000ドルの資金集めを開始した。募金者の中には、元ウクライナ駐在の米大使で、現在はギリシャ大使を務めるジェフリー・ピアットの名前もあったが、アテネの米大使館は今のところ問い合わせに回答していない。

ウクライナ人職員と連絡を取っている何人かのアメリカ人職員の話では、ウクライナ人職員の中には比較的安全なウクライナ西部に避難した人や祖国防衛の戦いに参加している人もいるが、ロシア軍がキエフを包囲し、陥落を目指す中、自身や家族がキエフに足止めされている人たちもいるという。

各国の米大使館で働くアメリカ人外交官の間では、国務省はいざという時に長く勤務してきた現地職員をあっさり見捨てるという怒りの声は以前から聞かれていた。民間人まで標的にするロシアの猛攻の最中でも同じことが繰り返されたとなると、国務省への不信感は増す一方だ。

「何カ月も前からヨーロッパ中でロシアが侵攻するぞと警告して回りながら、いざとなったら『緊急時対応のプランがありません』などと、よく平気で言えるものだ」と、ある匿名の外交官はあきれ顔で言う。「正しいことをするチャンスを逃すのは、国務省のお家芸らしい」

フォーリン・ポリシーは国務省にコメントを求めたが、返答はなかった。

国務省の対応には、外交官の間からも疑問の声が上がっている。ロシアによるウクライナ侵攻の可能性を何カ月も前から警告していたのに、なぜ現地職員の避難を支援する計画が何もなかったのか。

「キエフの米大使館の中庭には、大使館が所有していた数十台の車両が、ガソリン満タンの状態で放置されていた。それなのになぜ、彼らは現地職員がキエフから避難するのを手助けしなかったのか」とルービンは言う。

「それについてのどんなお役所的な理由も、不十分だし不適切に思える」と、彼は言う。「避難の支援をしなかったことは、もう済んだことで今更どうにもできないが、これから正しいことをすることは可能だ」

アメリカは2021年秋以降、ロシアの軍備増強とウクライナ侵攻の可能性について、先頭に立ってウクライナやヨーロッパの同盟諸国に警告してきた。1月には米国務省が、一部の米外交官とその家族に対して、ウクライナ国外への退避を命令。ウクライナ外務省はこれについて、ロシアによる侵攻がまだ決まったわけでもないのに、米政府がパニックや不安を煽っていると非難したほど早かった。

アフガニスタンの教訓は

2月半ばまでには、ウクライナで職務にあたっていた米国務省の全職員が国外に避難し、キエフの米大使館は閉鎖された。2021年8月にイスラム主義組織タリバンが予想以上の速さでアフガニスタンの首都カブールを奪還したとき、首都カブールの米大使館員は大使館屋上からヘリで脱出する失態を演じた。キエフから早々に退避したのはその教訓だろうという解釈もある。

だが複数の米外交官によれば、ウクライナ人職員が直面する窮状を見れば、国務省がアフガニスタンの教訓から何も学んでいないことは明らかだと指摘する。国務省はカブールからの緊急退避のなかで大勢のアフガニスタン人職員を救いもしたが、一方で何千人もの現地職員や通訳などの協力者が現地に取り残された(注:取り残されれば、アメリカの協力者としてタリバン政権に殺される危険もあると彼らは訴えいたにもかかわらず、だ)。

ルービンはウクライナとアフガニスタンの類似点を指摘して、「危機に備えた基本的な緊急対策が必要だ」と述べた。「生死にかかわる状況で、現地職員のために何をすべきなのか。そのことについての検討が、明らかに不足している」

From Foreign Policy Magazine

20250311issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年3月11日号(3月4日発売)は「進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗」特集。ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニスト、29歳の「軌跡」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中