【ウクライナ・ポーランド国境現地ルポ】ドイツの難民受け入れ......市民の活躍と差別論
ドイツ人の責任感は歴史だけからきているわけではない。ポリティコ誌は、英米、フランスなど様々な国がプーチンの暴挙を許す原因を作ったが、最も責任があるのはドイツだとし、ジョージア侵略からクリミア併合、ナワリヌイ氏の毒殺事件まで、ドイツがいかにロシアの罪に目を瞑り政財界で癒着してきたかを糾弾している。
ドイツ一般市民がこの事実をどのように感じているかはわからない。同誌はまた、先月22日の時点でドイツ人の半数がウクライナのNATO加盟に反対していること、さらに1月13日の時点で67%がロシアとドイツを結ぶパイプライン「ノルドストリーム2」のオペレーションに賛成していることも指摘している。一部のドイツ人が迅速な対応を見せたのは、歴史だけではなく現状からも罪悪感を感じていたからかもしれない。
ウクライナ難民に対する反応の速さを「人種差別だ」とする批判も
一方で、西側諸国のウクライナ難民に対する反応の速さを「人種差別だ」とする批判も出ている。「金髪碧眼」で「自分達のような」「洗練された」「ヨーロッパ人」だから、シリアやパレスチナ難民とは扱いが違うというのだ。
確かに今回の危機では、ふだんは反移民的なポーランドやハンガリーでさえ協力的だし、中にはスペイン極右政党フォックス党党首のサンティアゴ・アバスカルのように、スペインはムスリムではなくウクライナ移民を受け入れるべきだと言い切るものまでいる。だが、間近で見ている者として断言できるが、ドイツ人に限ってはウクライナ難民を断じてその容姿で受け入れているわけではない。そもそも、ドイツはどの国よりシリア難民を受け入れている(2020年の時点でトルコ、レバノン、ヨルダンに続いて世界4位の約62万人、欧州で1位だ)。
さらに、シリアがあったからこそ今回素早い対応ができたとも言える。シリア難民受け入れの際は、何かしたいがどうしていいかわからない一般市民もたくさんいた。たとえば、ボランティアひとつにしても、正式に登録するには犯罪歴がないことを証明する必要があり、その書類は警察で発行してもらわなければならないと広く信じられていた(実際には市役所で簡単に発行してもらえる)。あるいは、シリア難民が南のミュンヘン駅に続々と到着する様子をニュースで見慣れていたからこそ、ベルリン市民たちが今回素早く対応できたのではないか。
難民一家を預かり、ポーランド-ウクライナ国境でボランティア
実はわが家でも、ウクライナ難民一家を預かっている。先述のドイツ語教室クラスメートのつてだ。原発が襲撃される3日前に東部ザポリージャを脱出した。
ザポリージャからポーランドのプシェムィシルまで電車で12時間。車内は大変混み合っており、席を譲り合う姿も見られたものの、中には12時間立ちっぱなしの人もいたようだ。ポーランドからはさらにバスで10時間。3月2日の深夜0時にベルリンに到着し、翌日ここニュルンベルクに到着した。子供たちも含め、2日間ほとんど寝ていないという。
[Photo:電車の中] Dasha Timchenko for Newsweek Japan
一方、筆者の息子は、ウクライナとポーランド国境のドロフスクでボランティア活動に励んでいる。雪のちらつく中、食料品や薬品、毛布などの支援物資の配布と医師の補助などを行なっている。支援物資はおもにポーランド国内からの寄付だが、欧州他国から陸路で郵送されてくることもある。ボランティアもほとんどがポーランド人だが、ドイツやフランス、カナダからも来ているようだ。
現時点では組織だった活動というよりは個々人の意思で寄り集まって行動しているらしい。Polish Humanitarian Action(PHA ポーランド人道活動)などの組織がボランティアたちに移動手段や宿泊施設を提供しているようだが、宿のあるルブリンまでは車で片道1時間半もかかるため、ボランティアの多くは国境付近でウクライナ人の営むホステルに自腹で滞在しているようだ(1泊1200円程度)。
[photo:物資給付スタンド] Kai Morgenstern for Newsweek Japan