ウクライナ侵攻の展望 「米ロ衝突」の現実味と、「新・核戦争」計画の中身

CRISIS COULD TURN NUCLEAR

2022年2月26日(土)13時33分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)、マーク・アンバインダー(ジャーナリスト)

220301p22_ctn02.jpg

ネットワーク防衛の訓練をする兵士 TRE DAVISーU.S. AIR FORCE

当然のことながら、最も厄介な相手はロシアだ。保有する核兵器数は拮抗しているし、欧米に対する敵意を隠そうともしない。アメリカ同様に「新型兵器」を保有し、「いかなるレベルでも、どの領域でも、どの場所でも一方的に暴力をエスカレートさせる能力を有している」と、米戦略軍の計画部長フェルディナンド・B・ストスは言う。

この新たな核戦争計画を見つけたのは全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセンだ。彼が情報自由法を用いて請求し、手に入れるまでは誰も、その存在すら知らなかった。また内容が極度に細分化されているため、政府部内でも全体像を知るのは数百人程度だった。

「バイデン政権はもうすぐ『核態勢の見直し(NPR)』を発表する予定だが、内容は乏しいだろう」とクリステンセンは本誌に語った。爆撃機、地上配備型ミサイル、原子力潜水艦など、核戦争用の装備の構成は大して変わらないからだ。

「皮肉なことに、今や核兵器は戦略効果の全スペクトラムに組み込まれている」とクリステンセンは言う。だから大事なのは、こうした変化を踏まえた全体的な「戦略態勢の見直し」だと彼は考える。特に必要なのは、こうした戦力の多様化が戦略的安定と平和に役立つのか、その逆なのかの検証だと言う。

「核兵器による戦略的安定と言うなら、頼れるのは今も昔も原子力潜水艦だ。あれは不死身で、ロシアからの先制攻撃でも破壊されない」とクリステンセンは言う。「しかし最新の戦争計画では戦力の統合が進み、核兵器以外の選択肢が増えている。(たとえ核兵器を使わなくても)そういう選択肢の行使をロシアが挑発と見なし、あるいはアメリカからの先制攻撃の始まりと見なす可能性は否定できない」

核・非核の統合で戦争激化の道筋が増える

クリステンセンは「核・非核の統合が進み、破壊より効果に重点を置くことで、通常兵器による戦争と核戦争を隔てる壁が崩れ、戦闘激化の道筋が増える」ことを懸念する。

あまり知られていないが、もはやアメリカの核戦略は「先制攻撃を受けたらすさまじい反撃を食らわせる」と脅して相手に第一撃を思いとどまらせるというものではない。現行の戦略はオバマ政権時代に採用されたもので、まずは敵からの攻撃の目的について評価を下すための柔軟性を旨とする。大々的な一撃なのか、限定攻撃なのか、事故による発射なのかを見極めた上で対応を決める。

戦争計画の策定に当たる人たちの言葉を借りるなら、第一撃を「乗り切る」ために、まずはミサイル防衛システムなどでその衝撃を弱め、第一撃を吸収した後に、反撃の方法と規模を決めることになる。

この新戦略は大統領による意思決定の選択肢を増やす。つまり、自動的に核兵器で反撃することが唯一の選択肢ではなくなる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 3
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 9
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 10
    「こんなのアリ?」飛行機のファーストクラスで「巨…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中