ウクライナ侵攻の展望 「米ロ衝突」の現実味と、「新・核戦争」計画の中身
CRISIS COULD TURN NUCLEAR
当然のことながら、最も厄介な相手はロシアだ。保有する核兵器数は拮抗しているし、欧米に対する敵意を隠そうともしない。アメリカ同様に「新型兵器」を保有し、「いかなるレベルでも、どの領域でも、どの場所でも一方的に暴力をエスカレートさせる能力を有している」と、米戦略軍の計画部長フェルディナンド・B・ストスは言う。
この新たな核戦争計画を見つけたのは全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセンだ。彼が情報自由法を用いて請求し、手に入れるまでは誰も、その存在すら知らなかった。また内容が極度に細分化されているため、政府部内でも全体像を知るのは数百人程度だった。
「バイデン政権はもうすぐ『核態勢の見直し(NPR)』を発表する予定だが、内容は乏しいだろう」とクリステンセンは本誌に語った。爆撃機、地上配備型ミサイル、原子力潜水艦など、核戦争用の装備の構成は大して変わらないからだ。
「皮肉なことに、今や核兵器は戦略効果の全スペクトラムに組み込まれている」とクリステンセンは言う。だから大事なのは、こうした変化を踏まえた全体的な「戦略態勢の見直し」だと彼は考える。特に必要なのは、こうした戦力の多様化が戦略的安定と平和に役立つのか、その逆なのかの検証だと言う。
「核兵器による戦略的安定と言うなら、頼れるのは今も昔も原子力潜水艦だ。あれは不死身で、ロシアからの先制攻撃でも破壊されない」とクリステンセンは言う。「しかし最新の戦争計画では戦力の統合が進み、核兵器以外の選択肢が増えている。(たとえ核兵器を使わなくても)そういう選択肢の行使をロシアが挑発と見なし、あるいはアメリカからの先制攻撃の始まりと見なす可能性は否定できない」
核・非核の統合で戦争激化の道筋が増える
クリステンセンは「核・非核の統合が進み、破壊より効果に重点を置くことで、通常兵器による戦争と核戦争を隔てる壁が崩れ、戦闘激化の道筋が増える」ことを懸念する。
あまり知られていないが、もはやアメリカの核戦略は「先制攻撃を受けたらすさまじい反撃を食らわせる」と脅して相手に第一撃を思いとどまらせるというものではない。現行の戦略はオバマ政権時代に採用されたもので、まずは敵からの攻撃の目的について評価を下すための柔軟性を旨とする。大々的な一撃なのか、限定攻撃なのか、事故による発射なのかを見極めた上で対応を決める。
戦争計画の策定に当たる人たちの言葉を借りるなら、第一撃を「乗り切る」ために、まずはミサイル防衛システムなどでその衝撃を弱め、第一撃を吸収した後に、反撃の方法と規模を決めることになる。
この新戦略は大統領による意思決定の選択肢を増やす。つまり、自動的に核兵器で反撃することが唯一の選択肢ではなくなる。