中国の「始末屋」衛星、死んだGPS衛星を墓場軌道に引きずり込む
欧州宇宙機構のデブリ除去衛星のイメージ Image: ESA/ClearSpace SA
<通常の静止軌道を離脱し、不可解なルートを移動。デブリの除去活動とみられるが、原理としては他国の衛星を処分することも可能だ>
中国の人工衛星が1月、宇宙空間で別の衛星を「墓場軌道」と呼ばれる軌道に移動させ、物理的に処分していたことがわかった。アメリカの宇宙監視企業が確認した。
ターゲットとなったのは、2009年に中国が打ち上げ、軌道投入に失敗したGPS衛星だ。原理としては稼働中の他国の衛星を無断で軌道変更することも可能であり、米国防総省は危機感を募らせている。本件に関して中国側の説明はない。
米エクソアナリスティック社によると米東部時間の1月22日、中国の実験衛星「SJ-21」が通常の軌道を離脱した。続いて同衛星は、中国の死んだGPS衛星である「Compass-G2(または北斗2-G2)」への近接運用を開始した。搭載のアームでCompass-G2を捉えたとみられる。
米防衛産業誌の『ブレイキング・ディフェンス』は、その後SJ-21が「『大規模なマヌーバ(推進システムを利用した軌道変更)』を実施し、この死んだ衛星を静止軌道から引きずり出した」と報じている。
エクソ社が公開している動画では、25秒ごろから静止軌道を大きく逸れる様子を確認できる。
SJ-21 Tracking (January 2022)
墓場軌道へ投入
2つの衛星は連れ立って移動し、高度3万6000キロ付近にある地球同期軌道を離脱した。続いて西方へ移動しながら、さらに300キロ上方の墓場軌道に突入している。
墓場軌道は、活動を終えた衛星がスペースデブリなどの形で現役衛星に悪影響を与えないよう、安全に退避するための軌道だ。通常は最小限の燃料を残した衛星が自力でこの軌道に移行するが、他衛星によって引きずり込まれる形はめずらしい。
SJ-21はCompass-G2を墓場軌道に残し、1月26日までに通常の位置に戻った。現在、アフリカ中央・コンゴ盆地直上の静止軌道を周回している。
今回墓場軌道に投入されたCompass-G2は、中国版GPSの第2世代にあたる「北斗-2」ネットワークを構成する予定だった。第2世代の初号機として2009年に打ち上げられたが、静止化に失敗し、10年以上のあいだ死んだ衛星として漂っていた。
防衛上の課題に
SJ-21の今回の活動について、中国側の公式な声明はない。国営メディアは同衛星をデブリ除去技術の実証衛星だとしており、必ずしも軍事利用を前提としたものではないとの見方がある。
しかし、運用次第で他国の衛星を処分できる危険性をはらむ。SJ-21は昨年11月にも、実験用ターゲットとみられる衛星に対しマヌーバを行なっている。この際はアメリカ国内に防衛上の議論を巻き起こした。