社会人の学び直しの機会が閉ざされた、日本の「リカレント教育」の貧相な実態
汎用性のあるスキルを武器に労働者が職場を渡り歩く時代もやがて訪れる takasuu/iStock.
<学校で学び直したい希望がある30代以上の男女は合計500万人以上いると見られるが、現実にそれを叶えているのは数%しかいない>
日本の子どもの勉強時間は、世界でもトップクラスだろう。1日の学業時間(学校の授業、宿題、塾等での勉強)は10代前半が340分、10代後半が327分だ(総務省『社会生活基本調査』2016年)。自発的な学習・自己啓発は順に45分、46分。ところが筆者の年齢の40代後半だと順に3分、6分というありさまだ。
学校に通っている大人は極めて少数なので、当然と言えばそうだ。だが他国ではそうではない。OECD(経済開発協力機構)の国際学力調査「PIACC 2012」のデータを使って、通学人口率の年齢曲線を描くことができる。何らかの学校に通っている者の割合を年齢層別に出し、それらを線でつないだものだ。日本とフィンランドのカーブを描くと<図1>のようになる。
日本は10代後半では高いが20代前半では3割を切り、20代後半以降は地を這うような推移になる。だがフィンランドは低下の傾向が緩やかで、30代でも2割が学生だ。教育期と仕事期の間を往来する「リカレント教育」のシステムができているためだろう。企業は教育有給休暇を設け、大学等は一定期間の職業経験を入学資格とするなど、社会人が入りやすい条件を整えている。
しかし日本はそうでなく、社会に出た成人が学校に戻って学び直すのはなかなか難しい。職業訓練が企業内で閉じていて、従業員に外部の機関で教育を受けさせようとしない。教育有給休暇などはもっての他で、仕事を終えて夜間の学校に行くと言っても、雇い主は嫌な顔をする。
だが、日本の大人も学校で学びたいという欲求は持っている。内閣府が2015年12月に実施した『教育・生涯学習に関する世論調査』によると、30代男性の6.7%が「学校の正規課程で学びたい」と答えている。40代は13.6%、50代は9.1%、60代は3.4%、70歳以上は2.1%だ。40代男性では6人に1人。働き盛りの年齢層だが、今の会社以外でも通用する汎用性ある知識やスキルへの希求かもしれない。職務から離れた学びへの欲求もあるだろう。
30代男性人口は約789万人なので(総務省『国勢調査』2015年)、上記の比率をかけると30代男性の通学希望者数は53万人ほどと見積もられる。このやり方で他の年齢層の通学希望者数を出し合算すると300万人。30歳以上の男性の通学希望者数だ。同年齢の女性の通学希望者は236万人。男女合わせて536万人にもなる。