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社会人の学び直しの機会が閉ざされた、日本の「リカレント教育」の貧相な実態

2022年1月26日(水)14時15分
舞田敏彦(教育社会学者)

大人の学びの希望者数を出せたので、これを現実と照らし合わせてみる。後者は、実際に学校に通っている人の数だ。これは『国勢調査』から分かる。労働力状態が「通学の傍ら仕事」ないしは「通学」という人の数だ。<表1>は、年齢層ごとに通学希望者数と現実の学生数を対比したものだ。

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最下段を見ると、30歳以上の成人の通学希望者は536万人だが、実際にそれを叶えているのは12万人。希望実現率は2.3%、45人に1人でしかない。学びたいのに学べない。教育への希求が阻害されていることの数値的な表現だ。

年齢層別に見ると、希望実現率は働き盛りの男性で低い。高い通学希望率(40代は13.6%)であるにもかかわらず、仕事が忙しいなどの理由でそれができない。欲求と現実のギャップに苛まれていることと思う。高齢期になると時間に余裕ができるためか数値は少し上がるが、低いことに変わりはない。

日本のリカレント教育の貧相な実態は、「需要がないから」という理由で放置してよいものではあるまい。近未来の日本は逆ピラミッドの人口構造になる。大学はやせ細る子ども人口を奪い合いっているが、持てる資源を成人層に振り向けるべきだろう。企業は教育有給休暇を設け、国はこうした取り組みに報奨金を出すなど後押しをするべきだ。オンライン形式の授業もできるようになった今、学びの障壁は以前より下がっている。

人々の人生は直線型(教育期→仕事期→引退期)から、リカレント型(教育期⇔仕事期・引退期)へと変わらなければならない。後からやり直しができる社会では、18歳時に万人が無目的に大学に押し寄せることはない。家庭の事情で進学できなかった者は後からそのチャンスを得られ、公正な機会も担保される。

企業で働く労働者にしても、外に出る機会を持つのは大事だ。自社の色に染まってばかりだと、汎用性のない人材になる。先行きが不透明な時代にあっては、そのリスクは果てしなく大きい。汎用性のあるスキルを武器に、労働者が複数の組織を渡り歩く時代もやがて訪れる。

イノベーションは「今・ここ」を離れることで生まれる。教育界では教員免許更新制が廃止され、それに代わる研修の在り方が模索されているが、職務とは離れた「外」での学びにも重きを置いて欲しい。

<資料:OECD「PIAAC 2012」
    内閣府『教育・生涯学習に関する世論調査』(2015年)
    総務省『国勢調査』(2015年)

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