最新記事

米空母

1円で売却された米空母キティホーク、解体に向け最後の旅路に就く

2022年1月24日(月)12時24分
青葉やまと

2008年横須賀を出航する空母キティホーク REUTERS/Kyle D. Gahlau/U.S. Navy photo/

<空母キティホークが1円で譲渡。売却先のスクラップ工場へ出航した>

2009年に退役した米空母のキティホークが昨年、スクラップ会社に1セント(約1円)で売却された。建造には現在の貨幣価値に換算しておよそ25億ドル(約2800億円)が投じられている。アメリカ海軍協会はツイートを通じ、「バーゲン価格」での売却だと報じた。


準同級艦のジョン・F・ケネディにも同じ1セントの値札が付いている。両艦ともまだアスベストが積極的に利用されていた時代に建造されたものであり、船体にはほかにも毒性の強い化学物質が用いられている。海軍としては実質無償でスクラップ業者に譲渡することで、本来必要となる莫大な廃船費用を負担しなくてよいメリットがある。

キティホークは退役後、シアトル近郊・キトサップ海軍基地の所在するワシントン州ブレマートンの街に保管されていた。1月19日になってテキサス州の民間の解体工場へ向け、最後の航海に出航した。

米ネイビー・タイムズによると、船幅の制限を超過するためパナマ運河を航行することができないことから、南米大陸の先端まで大回りするルートを取る。米ドライブ誌は、この最後の航海は130日以上の長旅になると報じている。

かつて住み慣れた家、今は鉄くずに

かつての乗員たちは、廃船となるキティホークに胸を痛める。1月のある霧の日、ジェイソン・チュディ曹長は、ブレマートン対岸のシアトル・ディスカバリーパークに立っていた。氏はキティホークに最後まで乗務した17名の船員のひとりであり、解体に向けて出航する同艦を見送りたいと考えた。

チュディ氏は英インディペンデント紙に対し、別れの日を次のように振り返っている。「その日は濃霧でした。船はふと、タグボートとともに霧のなかからその姿を現し、ゆっくりと近づいてきました。」「多くの人々にとって、とても悲しい日でした。」

最後の姿を目に焼き付けたチュディ氏だが、その胸中は複雑だ。ブリッジ外壁にはかつて、艦番号を示す「63」の文字がペイントされていた。この日までにすでに塗りつぶされ、キティホークはその象徴を失っていたという。「なんとも言えない思いです。3年間を過ごした家なんだ、という気持ちが込み上げます。しかし、もう巨大な鉄の塊でしかないのです。」

解体されたキティホークの部材は、その大半が鉄くずなどの資源として処理される。しかし、空母を象徴する一部の希少なパーツは個別に取り外され、eBayなどのネットオークションに出品される見通しだ。

長年キティホークに乗務していたベテランの軍人たちのなかには、愛着のある船体のパーツを入手できる日を楽しみにしている人々も多い。苦楽を共にした空母の形見を手元に残そうと、オークションで見かけるのを心待ちにしているのだという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米国版の半導体の集積拠点、台湾が「協力分野」で構想

ワールド

アフガン北部でM6.3の地震、20人死亡・数百人負

ワールド

米国防長官が板門店訪問、米韓同盟の強さ象徴と韓国国

ビジネス

仏製造業PMI、10月改定48.8 需要低迷続く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 7
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中