最新記事

中国

ピークを過ぎた中国は世界の脅威、習近平がまず噛みつく相手は?

2022年1月4日(火)15時45分
クリス・パッテン( オックスフォード大学総長)

第2の大きな問題は、人口動態だ。債務の急増と生産性の低下は、生産年齢人口の劇的な減少に伴って起きている。予測によれば、中国の労働人口は2050年までに1億9400万人減少する見込みだ。

さらに中国では男女比率の不均衡が大きく、世帯数と出生率の両方が減少している。この傾向は最も若い年齢層で顕著であり、10~14歳の男女比は1.2対1だ。世帯数の減少を考えれば、住宅建設ブームが多くの無人アパートと少なくとも50の鬼城(ゴーストタウン)を生み出したことも不思議ではない。

こうした問題に対処するため、習は生産性の高い民間企業への統制を強め、国有企業を優遇する方向に大きく舵を切った。

この政策の背後にあるのは、成功した大手IT企業に主導権を奪われ、民間部門の経済的成果が格差を悪化させることへの恐れだ。中国共産党にとって、経済的格差は第3のアキレス腱である。

しかし、富と所得の不平等さを測るジニ係数を見ると、現在の中国は多くの欧米先進国よりも格差が大きく、アメリカのレベルに近づいている。少数の億万長者に財産の一部を差し出させたとしても、これでは焼け石に水だろう。

格差を是正するためには、党上層部のために多額の富をかき集める共産党の権力構造の解体が必要になる。

習近平の中国は、深刻な資源と環境の問題も抱えている。原油の輸入量は世界最大。食糧安全保障の問題にも直面している。気候変動の影響も甚大だ。

特に中国北部は水不足に陥っている。中国の水資源は世界の7%にすぎないが、人口は18%を占め、人が住む場所と水がある場所の間に完全なミスマッチが生じている。

中国が二酸化炭素の排出量を削減すれば、さらなる経済成長の足かせとなる可能性が高い。いずれにせよ債務問題と人口問題の結果、経済成長は横ばいになるだろう。国民が経済危機を実感すれば、習はさらなる監視と脅迫によって権力を維持しようとする可能性がある。

習近平政権は地政学的に明らかに過剰な動きを見せてもいる。アメリカと自由民主主義陣営の衰退は不可避だという見方に固執する習は、「わが国が主導権を握り、優位に立つ未来」を目指すと豪語した。いわゆる「戦狼外交」を通じ、中国はインド太平洋地域の盟主となり、専制主義の成功モデルを世界に示すというわけだ。

しかし、インド、日本、韓国、シンガポール、オーストラリア、ベトナムなどの近隣諸国は、習の強権外交に抵抗する姿勢を強めている。さらに、アメリカは他国との協力体制構築に成功し始めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ロッキード、アラバマ州に極超音速兵器施設を新設

ワールド

中国経済は苦戦、「領土拡大」より国民生活に注力すべ

ビジネス

成長率の範囲に債務残高伸び抑え市場の信認確保したい

ビジネス

前場の日経平均は続伸、700円超高 AI関連が引き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中