スティグリッツが今年の世界経済に見る2つの暗雲:トランプと中国
NO WIGGLE ROOM AHEAD
インフレに政治問題に米中対立......2021年から 続く危機がアメリカを傾 かせる(ニューヨーク) EDUARDO MUNOZ ALVAREZ/GETTY IMAGES
<混乱と中断と変化にもまれるアフターコロナの世界。インフレと米中衝突という危機に対処する最良の選択は>
パンデミックや政治の風向きにも まれて期待が乱高下した2021年は、 ジェットコースター のような1年だった。新しい年もあまり変わらないだろう。 ただし、 11月にアメリカで行 われる中間選挙は、変動リス クが特に大きくなりそうだ。
こうした不確実性を考えると、自信を持って1年を予測するのは無謀に思えるが、私なりにやってみよう。
まず、新型コロナウイルスは根絶されないまでも、ついに飼いならされるだろう。世界の十分な地域で十分な数の人がワクチンを接種し、大半の地域の大半の人が、2年余り苦しめられてきた恐怖を乗り越えるだろう。
ただし、「封じ込められた」 エネルギーを解き放つプロセスではあるが、世界経済の再起動は、シャットダウンのと きのように簡単ではない。
市場の価格システムは、合理的な人々の意思決定の指針となり得る。分野によって細かい調整も可能だろう。しかし、農業から製造業へ、製造業からサービス業へ、平和から戦争へ(あるいはその逆) といった大きな構造的変化にはうまく対応できそうにない。
自分の仕事の価値を問い直す労働者たち
経済では既に多くの中断が生じており、さらに増える可能性がある。生産と消費のパターンが大きく変わることを覚悟しなければならない。例えば、ZoomでのやりとりやEC(電子商取引)が増えて、実店舗での買い物は減る だろう。不動産部門は、商業用の需要は減少するが、他の分野で盛り返すかもしれない。
労働市場はかつてないほど混乱している。いくつかの変化は永続的なものになるかもしれない。そして、多くの労働者が自分の仕事の価値を改めて考えている。こんなに安い給料で、こんなに劣悪な環境で、こんなにストレスを抱えてまで働く必要があるのだろうか、と。
アメリカでは失業手当の上乗せ措置が終わった後も、労働力不足が続いている。 40年にわたって資本家が経済の大きなパイを奪い続けてきたパワーバランスが、ついに労働者に傾くかもしれない。