最新記事

精神医学

マジックマッシュルームがもたらす幻覚が、「鬱病」を劇的に改善

TRIPPY TREATMENTS

2022年1月11日(火)10時30分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

220111P42_MKM_04.jpg

コンパス・パスウェイズが開発するシロシビン薬 COMPASS PATHWAYS

一部の科学者は近年、幻覚剤が脳に成長ホルモンの放出を促すことで、脳細胞が回路を「再配線」する可能性があることを示唆する証拠を発見している。さらに幻覚剤は脳の再生を促す可能性もあるという。

例えばエール大学医学大学院の研究者は、レーザー顕微鏡でマウスの脳、特にニューロン先端部の樹状突起棘(隣接するニューロンとの結合を可能にする棘状の突起物)を観察した。慢性的なストレスや鬱は、この樹状突起棘の数を減らし、萎縮させることが分かっている。研究者がストレスで樹状突起棘が萎縮したマウスにシロシビンを投与したところ、樹状突起棘の回復が見られた。

しかも、この「脳の再配線」は1回の投与で長続きするようだ。シロシビンを投与したマウスは、1カ月後にニューロンの結合が10%増加した。結合密度が高まったことで、マウスの行動が改善され、神経伝達物質の活発化などの効果が観察された。

難治性脳疾患の新たな治療法にも

ペトリ皿の中でヒトの脳細胞に幻覚剤を投与した他のグループは、新しい脳細胞の成長(神経発生)を報告した。一説によれば、セロトニン受容体のスイッチを長時間「オン」の状態にする幻覚剤の作用が、ニューロンにホルモンのような信号の放出を促し、神経新生のプロセスを強化するのではないかとされている。

ハーバード大学のローゼンボムによれば、これらの化学反応を正確に把握できれば、さまざまな脳疾患の原因解明だけでなく、多くの難治性脳疾患の新たな治療法の開発が期待できるという。

プレスリーは精神科のソファに横たわっているとき、樹状突起棘のことも自我のことも考えていなかった。7歳の子供に戻り、両親や兄弟2人と日曜説教の間、教会の席に座っていた。「両側に兄弟の気配を感じ、どんなに兄弟や両親を愛しているかを実感した」

やがて教会のシーンは別の光景に変わった。自分や両親、その他の愛する人々の葬式の場面だ(実際は全員が存命)。そして恋人との未来を思い描いたり、純粋な喜びや感謝の念があふれ出るのを感じたり......。

それが現実ではないことは分かっていた。しかし、一連の光景は極めて詳細で、本物のように感じられた。

この体験をジョンズ・ホプキンズ大学の療法士と一緒に振り返った後、何かが変わった。それから数週間から数カ月間で、プレスリーが見た光景は新しい人生の指針となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中