最新記事

精神医学

マジックマッシュルームがもたらす幻覚が、「鬱病」を劇的に改善

TRIPPY TREATMENTS

2022年1月11日(火)10時30分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

220111P42_MKM_03.jpg

マジックマッシュルーム JOE AMONーMEDIA NEWS GROUPーTHE DENVER POST/GETTY IMAGES

その後、ニューヨークの銀行家R・ゴードン・ワッソンがメキシコのオアハカ州を訪れ、シロシビンを含有するキノコを試し、その際の幻覚体験をライフ誌に寄稿した。これによりアメリカの大衆はマジックマッシュルームの力を知ることとなる。

精神科では不安や鬱などに対する幻覚剤の治療効果が確認された。またシロシビンは60年代までに700人を超えるアルコール依存症患者に投与され、その半数は少なくとも2カ月は酒を飲まずにいられたという。

一方で、娯楽目的での乱用が広がって自殺や神経衰弱、恐慌状態を引き起こす事例が相次いだため、幻覚剤は違法薬物に指定された。政府からの研究資金も途絶えた。だが長年にわたり、アメリカ内外の少数の研究グループがマウスを使った実験を続け、シロシビンが人間の知覚を根底から変える理由を突き止めた。

LSDやシロシビンが非常に強力な効果を持つのは、分子の形状が特徴的で、神経細胞のセロトニン5H2A受容体とがっちり結合して長時間離れないからだ。受容体に結び付いたLSDやシロシビンは細胞内の信号を混乱させ、爆竹のような勢いで情報伝達を起こす一方で、他の神経細胞の活動を抑制したりもする。

脳の伝達パターンを大きく乱す

しかし、そもそも幻覚剤はなぜ深い精神的体験を引き起こすのか。そうした疑問の解明には臨床試験が必要だった。向精神薬を擁護する訴訟やロビー活動を経て、90年代の初めにFDAは幻覚剤などの「乱用薬物」を再評価し、研究の申請を受け入れる方針を示した。

2000年代半ばからはニューヨーク大学やカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、ジョンズ・ホプキンズ大学など著名な大学で、神秘体験や末期癌、依存症を対象に臨床試験が行われた。さらに、脳スキャン技術は脳内のどの領域が活動しているかを観察することができ、薬が脳に与える影響の記録に貢献している。

LSDもシロシビンも、脳の神経伝達のパターンを大きく乱す。特に、計画、意思決定、連想など、世の中を解釈して意味を理解するために必要な高レベルの神経回路に関する脳構造のネットワークの結合と機能が阻害されると考えられる。

幻覚剤は、脳の中心部の近くにある視床網様核の機能にも影響を及ぼすようだ。視床網様核は感覚の信号の量を調節して、あるインプットに注意を集中し、他のインプットを遮断することができるようになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外務省、高市首相に「悪質な」発言の撤回要求

ビジネス

訂正-三越伊勢丹HD、通期純利益予想を上方修正 過

ビジネス

シンガポール中銀、トークン化中銀証券の発行試験を来

ビジネス

英GDP、第3四半期は予想下回る前期比+0.1% 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中