最新記事

日本経済

不正転売について考えてみた

2021年12月16日(木)17時36分
廣瀨涼(ニッセイ基礎研究所)
秋葉原

なぜ人は、高いお金を出しても不正転売品を買おうとするのか(写真は秋葉原) recep-bg-iStock.

<「それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」というメルカリのCMで改めて脚光を浴びたオークションやフリーマーケットは、一方で高額不正転売の温床でもある。転売目的でない消費者にきちんと商品を届けるにはどうしたらいいのか、企業の試行錯誤は続く>

この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2021年12月8日付)からの転載です

1──メルカリとユニバーサル・スタジオ・ジャパンが結んだ協定

2021年11月22日、フリマアプリ「メルカリ」を運営する株式会社メルカリとテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」を運営する合同会社ユー・エス・ジェイは、「マーケットプレイスの共創に関する覚書」を締結した1。この協定では、両社が商品情報や発売情報を事前に共有し、特定の新商品発売前後の注意喚起や権利侵害品対策などについて連携し、より安心・安全に取引ができる環境を構築することが目的となっている。

現代市場においてメルカリをはじめとする「二次流通業者」の存在感は大きなものとなっている。従来のビジネスモデルでは、企業(小売り)が商品をメーカーから仕入れ、店舗やネットを通じて消費者に商品を提供する「一次流通業」が主な流通チャネルであった。この場合、日用品から車や宝石に至るまで消費者はメーカーや販売業者から財を購入する事が商流の習わしであり、このビジネスモデルは一般的に「BtoC (Business to Consumer)」と呼ばれている。

それに対して二次流通業とは、オークションやフリーマーケットで中古品を販売するビジネスを指す。元々我々に馴染みのあった二次流通業は、消費者が一度購入したものを古物商許可を持つ業者が買い取り、それを再販するというビジネスモデルであった。これには古本屋や古着屋、中古の高級ブランド品を販売する質屋やリユースストアなどが該当する。

しかし、昨今では消費者と消費者の間に間接的に業者が仲介し、実質消費者間で取引が行われる「CtoC (Consumer to Consumer)」の取引も一般的になってきている。本レポートで取りあげる「メルカリ」や「ヤフオク!」、「ラクマ」などがその一例である。2021年9月30日よりメルカリは「それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」と、新品ではなくとも中古品でも場合によっては十分に購入者のニーズを満たすことができる、といった旨のメッセージをCMで発信している。最近耳にする回数が増えたSDGs(Sustainable Development Goals)の観点からも、廃棄されるものが減り、持続可能な消費と生産サイクルへの配慮がなされ、商品が消費者間で循環されていくことは、結果的に環境に配慮した取り組みへと繋がっていくのである。

2──転売ヤーと「禰豆子のポップコーンバケツ」

しかし、残念ながら二次流通業と消費者との関わりにはそのようなポジティブな側面だけでなく、ネガティブな側面も擁しており、その代表となるのが「不正転売」の存在である。

今回メルカリとユー・エス・ジェイが結んだ協定も「不正転売」に対する対策の一つとして位置づけられている。テーマパーク市場では、消費者のテーマパークでの体験価値のほかに、パーク内で販売されているグッズ(お土産)も消費者の満足を充足するものであり、テーマパーク各社はグッズ企画に注力している。それ故に現地でしか買うことができないという点でテーマパークのグッズには付加価値がつき、更に期間限定商品や数量限定商品などはマニア垂涎のグッズなのである。

そのため、俗にいう「転売ヤー」とよばれる不正転売を行う消費者によって、それらのグッズは不当に価格が吊り上げられ、二次流通業者を仲介して販売されているのである。不正転売が行われると、本当に欲しいと思っているパーク来園者にも商品が手に入れることができないデメリットが生じる。また、不当に価格が吊り上げられた商品が横行することで、「その価格で売れるなら、次に行ったとき転売用に買って来よう」といったように転売ヤーの数の増加にも繋がってしまうのである。また、悪質転売行為は商品そのものに留まらず、グッズを購入する権利すらも販売対象としている者もいる。例えば、東京ディズニーリゾートはコロナ禍における三密を回避するために、来園者は当日中ならば専用のサイトからパークグッズを購入できるという対策をとっているが、その対応を悪用して、入園後にその使用済みチケットを再販してグッズ購入権利を高額で譲渡している者も現れている。

────────────────
1 メルカリとユー・エス・ジェイ、安心・安全な取引環境の構築に向けた包括連携協定を締結2021/11/22 https://about.mercari.com/press/news/articles/20211122_usj/

2 メルカリとUSJが転売対策で連携 まずは「禰豆子ポップコーンバケツ」に注意喚起2021/11/22 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2111/22/news087.html ITmedia NEWS

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中