最新記事

日本政治

なぜ君たちは与党になれないのか

Awakening from a Nightmare

2021年12月9日(木)21時04分
北島純(社会情報大学院大学特任教授)

日本の場合、政策立案の源泉たる霞が関の官僚機構を利用できるのは与党だけ。野党が与党に対抗して全ての分野で独自案を立てることは期待すべくもない。しかし、少なくとも国民の関心が高い課題について、例えば「立民ならDX政策はこうする」という明確な政策プランを用意する必要がある。それがトリガーになって国民の間に「立民に任せてみよう」というストーリーが生まれるからだ。

くしくも自民党政権は集団的自衛権行使の解釈変更や日本学術会議の任命問題で、少なからぬ学者や有識者の支持を失った。そうした学的共同体の協力が得られれば政策立案力は向上するだろう。

他方で日本における市民社会の脆弱性という課題もある。政府、企業と等位な市民社会の構築は、ジェンダー平等など市民的リベラルに立脚する立民にとっては戦略的に重要だ。民主党は「新しい公共」という概念を提案して市民社会の構築に取り組んだが道半ばに終わった。この問題にどう対処していくのか。

日本社会全体にとっての政治的脆弱性という視点も重要だ。敗戦後の混乱の中で日本は10年をかけて、保守合同を核とする政界再編を成し遂げ、融通無碍の自民党と社会党からなる55年体制をつくり上げた。それは米ソ冷戦の中で、生き残りを懸けた日本型のレジリエンス(強靭性)でもあった。

「政治的強靱化」への道

グローバル化が進む現代では、気候危機や経済格差の深刻化など持続可能性を損なう「資本主義の危機」と、米中新冷戦下で専制主義の挑戦を受ける「デモクラシーの危機」が叫ばれる。このなかで、各国政府は新型コロナウイルス対策、脱炭素に伴うエネルギー戦略の転換など高度に複雑化した政治課題に直面している。

分断の進む社会での舵取りは誰であっても容易ではない。だからこそ主権者が状況の変化に応じて政権を選択できることが、社会として、国家としての強靭性を担保する。

しかし日本では安倍政権が12年以降につくり上げた「一強多弱」のアンバランスな政治状況が続き、国民に政権選択の自由が確保されているとは言い難い。選挙での低投票率も続いている。それゆえ立民が注力すべきは「急がば回れ」で、主権者が政権選択の自由を行使できる土壌を醸成することにほかならない。

政治的強靭性の構築という戦略目標の下、立民が支持を拡大できるかどうかは今後の個別的な取り組みによる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ビジネス

米シカゴ連銀総裁、前倒しの過度の利下げに「不安」 

ワールド

IAEA、イランに濃縮ウラン巡る報告求める決議採択

ワールド

ゼレンスキー氏、米陸軍長官と和平案を協議 「共に取
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中