最新記事

イギリス

中国の自信過剰と誤算が戦争を招く最大の脅威 MI6長官

MI6 Warns China 'Miscalculation,' 'Overconfidence' Could Lead to War With U.K., Allies

2021年12月1日(水)18時40分
ローラ・コルパー
MI6のムーア長官

秘密主義で知られるMI6の歴代トップのなかで初めてツイッターのアカウントを持ったムーア長官 The Telegraph-YouTube

<007シリーズで有名な英諜報機関MI6の局長が長い歴史のなかで初めて公の場で演説をした。民間からの技術協力がなければ中国に勝てないと判断したからだ>

イギリスの対外諜報機関の責任者が情報活動で最も重視している相手国として中国を名指しし、中国政府の「誤算」は戦争につながる可能性があると警告した。

2020年10月にイギリスの諜報機関MI6(正式名称「秘密情報部」)の長官に就任したリチャード・ムーアは11月30日に初めて公の場で演説を行った。そして、イギリスのスパイが直面する「4大脅威」として中国、ロシア、イラン、国際テロ組織の名を挙げ、中国がそのなかで最も重視すべき相手であると語った。

AP通信の報道によれば、ムーアは中国を「われわれとは異なる価値観を持つ独裁的国家」と呼んだ。そして、中国政府はイギリスとその同盟国に対して「大規模なスパイ活動」を仕掛け、「一般世論と政治的意思決定を歪めようと」試み、世界中に「独裁的支配の網」をはりめぐらすためのテクノロジーを輸出していると語った。

「中国政府は西側の弱点に関する自作のプロパガンダをみずから信じており、米政府の決意を過小評価している」と、ムーアは付け加えた。「自信過剰によって中国が判断ミスをするリスクは存在する」

ムーアはまた、中国の現政権は「大胆で決定的な行動」を後押ししていると述べ、その最たる証拠として1949年に中国本土から分裂した台湾を独立国として認めることを拒んでいることを挙げた。

「中国が軍事力を増強していること、そして中国共産党が、必要であれば力づくでも台湾を統一したがっていることも、世界の平和と安定を脅かす深刻な課題を提起している」と、ムーアは述べた。

ウクライナ侵略も防ぐ

AP通信が報じたより詳細な報道は以下のとおり。

イギリスは「ロシアからの深刻な脅威にも直面している」と、ムーアは語った。さらに、ロシア政府が2018年にイギリスで起きた元スパイのセルゲイ・スクリパリの毒殺未遂など、暗殺事件の黒幕となり、サイバー攻撃を仕掛け、他国の民主的プロセスに干渉していると指摘した。

「わが国と同盟国、そしてパートナー国は、国際ルールに基づくシステムに違反するロシアの活動に立ち向かい、阻止しなければならない」とMI6長官は述べた。

「欧州およびその周辺のどの国も、ロシアの態度が改善されることを期待してバランスの悪い譲歩をする誘惑に負けてはいけない」と彼は言い、ロシアが2014年にウクライナからクリミアを併合し、最近もウクライナとの国境付近で軍を増強していることを指摘した。

この発言は、ウクライナにおけるさらなる侵略を防ぐためにロシア政府を牽制しようとするイギリスと北大西洋条約機構(NATO)の高官が発した最新の警告を反映している。

イランもまた大きな脅威を与える存在であり、「国家内の国家」とよばれるイスラム教過激派組織ヒズボラを利用して近隣諸国の政治的混乱をあおっている、とムーアは語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ11月輸出、前年比7.1%増 予想下回る

ワールド

イスラエル、兵器産業自立へ10年で1100億ドル投

ビジネス

物価目標の実現「着実に近づいている」、賃金上昇と価

ワールド

拙速な財政再建はかえって財政の持続可能性損なう=高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中