2021年JC・JK流行語大賞を総括する──「第4次韓流ブーム」と「推し活」という2つのキーワード

2021年12月22日(水)14時04分
廣瀨涼(ニッセイ基礎研究所)

nissei202112221304223305.jpg

その中でもトレカが若者に選ばれる理由は低コストで楽しめるという点であると筆者は考える。これは実際に作成にかかるコストだけでなくオタ活(オタク活動)における心理的コストも影響している。トレカデコは通常100円均一でそろう材料で作成できるため、その手軽さが人気の理由である。併せて複数の対象に対してオタ活をする若者は、そのコンテンツごとに消費を分散しなくてはならないため、一つ一つのオタ活にかかる費用が低コストで抑えられるという点から見てもメリットがあるのである。

筆者は本来「オタク」という語は「自身の感情に「正」にも「負」にも大きな影響を与えるほどの依存性を見出した興味対象に対して時間やお金を自分のできる範囲の限界まで消費することにより、精神的充足を目指す」という消費性を指していると考える14。しかし、「オタク」という言葉が大衆化したことで、コンテンツに対するお金や時間の消費の熱心度とは関係なく、自身の興味対象やブームに対して「自身は○○オタクである」と名乗ることが一般化した。従来は他の同じコンテンツを嗜好する消費者から知識量や熱心さを比較され「にわか」や「ライト」とネガティブな烙印を押されることもあったが、一般化したオタクという語彙において、特に若者層にとっては自身のアイデンティティを形成するものとしての位置づけが強く、他人がどうあれ自分が好きならそれはオタクである、と考えているようだ15。

これが、かつてのオタクの文脈でオタクという語彙を理解する層との間で認識のずれが生じるのは致し方無いことである。従来のオタク16は、コンテンツを極めるために支出や消費を1つまたは2つ等の少ないコンテンツや1つのジャンルに対して集中投資する傾向があったが、若者文脈におけるオタクでは、自身の興味対象はすべてオタクであり、「自身は○○オタクである」と名乗ることが普通となっている。そのため、今は○○オタク、今は△△オタクといったように、オタクという性質がその場その場でつけ外しが可能なタグのような役割をもっているのである17。「オタ活(オタク活動)」という語彙から見れば、総じて彼ら彼女たちの趣味・興味への投資は全て「オタ活」としての位置づけとなるため、趣味や興味が多くなるほどオタ活にかかる支出をそれぞれに分散しなくてはならない。また、従来のオタクは同じコンテンツを長く消費してきた傾向があるが、若者にとっては一時的ブームや興味に対してもオタクという語を用いるため、新しい興味対象を見出したら乗り換え、新たにオタクを名乗るという消費行動を繰り返していく。

────────────────
14 これは消費性オタクに限った話で、オタク文化を取り巻くネガティブなレッテルの側面が考慮されていなかったり、元々の漫画やアニメといったコンテンツを消費していた1980年代のオタクと呼ばれていた人々の性質と異なることは承知している。

15 もちろん若者の中にも1つのコンテンツに特化して、嗜好し極めていく昔ながらのオタクもいることを留意したい。ここでの若者オタクとは一般化した意味でのオタクを肯定的に捉え、オタクという語を自身を補完するアイデンティティや他人に自身をわかってもらうためのモノとして、他人を意識して用いている層を指している。

16 ここでいう従来のオタクとは、1980年代に存在した「おたく」というレッテルを貼られていた層や、1990年代初頭にメディアによって仕立てられた「危ない人々、根暗な人々といった」ステレオタイプの側面を指しているのではなく、あくまでも好きなコンテンツを熱心に消費する消費性オタクを指している。

17 オタクとはそもそも他人からのレッテルによって成立するため、自身の意思とは関係なく成立してしまう。言い換えれば自身でオタクという烙印もしくは評価を消すことはできないのである。人格そのものと言ってもいいかもしれない。また、好きなコンテンツに対して極端に消費してしまう消費性を「オタク」と呼ぶ場合もあり、このマインド自体は他人からの承認やレッテルがなくとも成立するが、そのオタクというマインドは当該コンテンツを好きでいる限り永続的に、そして連続性を持つモノである。仕事をしている時も、食事をしている時も、寝ている時もオタクはオタクなのである。そのため、そのコンテンツに対する消費行動一つ一つに繋がりがあり、言い換えればオタク活動は、オタクを引退するまで終わりは来ないのである。しかし若者の間で使われている「オタ活」という語は、自身の興味対象を消費している瞬間(機会)に使われる言葉であり、その動作(購買、視聴、イベント参加)が終わると、その「オタ活」は終わりを迎える。オタクが人を表す総称から、興味対象を指す総称としての意味を含むようになったことで、オタクはマインドではなく、つけ外しが可能なタグのような役割も持ったのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド政府、3500万人雇用創出へ 120億ドルの

ワールド

トランプ氏の対日関税引き上げ発言、「コメント控える

ワールド

米上院通過の税制・歳出法案、戦略石油備蓄の補充予算

ビジネス

物言う株主、世界的な不確実性に直面し上半期の要求件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中