現在の経済混乱は企業が続けてきた「ケチ経営」のツケ、事態はより悪化する
WINTER IS COMING
エネルギー危機は、経済活動再開と新型コロナに伴う問題の2つの側面を悪化させている。
ロックダウンから解放された消費者がカネを使い始めるなか、当然ながらインフレ率は上昇した。だがエネルギー価格高騰は、世界規模でインフレ率をさらに押し上げている。
ユーロ圏の9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で3.4%上昇し、イギリスのインフレ率は4%を超えると予測される。アメリカの8月のCPIは前年同月比で5.3%上昇。ロシアのコアインフレ率(変動の大きいエネルギーと食品を除く物価上昇率)は7.1%上昇し、中国の生産者物価はこの四半世紀で最速のスピードで伸びている。
一方、エネルギー危機で供給チェーンはさらに危うくなった。中国では計画停電で工場生産が減少し、世界各地の購買者に影響が波及している。欧州では、製鉄業界や肥料メーカーが減産を余儀なくされ始めた。
長いロックダウンや製造・流通の混乱に起因する供給不安定は、経済回復の足を引っ張り続けている。
「長期にわたって繰り返された不安定な封鎖措置は、在庫縮小や輸送能力の低下、労働者の物流業界離れ、原状復帰へのためらいを引き起こした」と、スイス・ジュネーブにある国際・開発研究大学院のリチャード・ボールドウィン教授(国際経済学)は指摘する。「消費が急回復する今、供給網が直撃を受けている」
その結果、半導体をはじめとする重要部品が不足し、ユーロ圏の工業生産は今夏末に減少。経済大国のドイツなどで、消費者信頼感指数が低下している。
「リーン経営」にこだわり過ぎた企業
「多くの企業が(在庫などを削減する)『リーン経営』にこだわりすぎていた。それが問題だ」と、ピーターソン国際経済研究所(ワシントン)のアダム・ポーゼン所長は言う。「過剰なリーン経営は順風が前提条件であり、供給網が混乱した際にはダメージが増幅される」
エコノミストや大手投資銀行、IMFはアメリカやイギリス、中国、および世界全体の成長見通しをわずかながら下方修正している。
それでも「不満の10年」だった70年代と同じ状況になる見込みはかなり薄い。スタグフレーション(インフレを伴う経済停滞)という恐るべき言葉が再び広がっていてもだ。
「いま起きているのは経済国全般における成長の減速だ」と、ポーゼンは言う。「グローバル経済が予測されたほど猛スピードで回復していないという指摘は(70年代のアメリカやイギリスで起きた経済の)縮小を意味しない」
とはいえ、エネルギー危機とモノ不足とインフレ率上昇のトリオには、経済的リスクが付きまとう。