最新記事

感染症

青年期の感染症と多発性硬化症のリスクとの関係が明らかに

2021年11月5日(金)18時00分
松岡由希子

青年期の様々な感染症が多発性硬化症のリスクを高める wildpixel -iStock

<青年期の様々な感染症が多発性硬化症のリスクを高めることを明らかにした>

多発性硬化症(MS)とは免疫細胞が中枢神経や視神経に炎症を引き起こし、神経組織に障害をもたらす自己免疫疾患で、20代から50代までに発症することが多い。発症リスクとして、遺伝子的要因のほか、高緯度地域での生活、日照時間の低下、喫煙、EBウイルスへの感染などが指摘されているが、その原因についてはまだ解明されていない。

肺炎と多発性硬化症のリスクの上昇に関連がある

英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の臨床疫学者スコット・モンゴメリー教授らの研究チームは、2020年6月に発表した研究論文で「11~15歳の肺炎と多発性硬化症のリスクの上昇に関連がある」ことを明らかにした。

研究チームは、この研究結果をふまえて、他の感染症と多発性硬化症に関連があるかどうかさらに研究をすすめ、一連の研究成果を2021年8月21日に学術雑誌「ブレイン」で発表している。

まず、研究チームは、1970年から1994年までにスウェーデンで生まれた242万2969人の健康記録を分析。20歳以降に多発性硬化症と診断されたのは0.17%にあたる4022人で、その平均年齢は30.11歳であった。また、全体の19.07%にあたる46万2147人が0~10歳に感染症と診断されたことがあり、13.96%にあたる33万8352人が11~19歳に感染症と診断されている。

次に、感染症に罹患した年齢と多発性硬化症のリスクの上昇との関連を調べた。その結果、10歳までの感染と多発性硬化症のリスクには関連が認められなかった一方、11~19歳の感染は多発性硬化症のリスクを1.33倍に高めることがわかった。

青年期の様々な感染症がリスクを高める

とりわけ、11~19歳の中枢神経系感染症(脳脊髄炎を除く)では多発性硬化症のリスクが1.85倍、呼吸器感染症では1.51倍高い。また、感染症のうち、EBウイルスによって引き起こされる伝染性単核球症や肺炎、中枢神経系感染症を除いても、多発性硬化症のリスクは1.17倍高くなった。

一連の研究結果は、青年期の様々な感染症が多発性硬化症のリスクを高めることを明らかにするとともに、青年期が多発性硬化症のリスクを高める環境暴露への感受性の臨界期にあることも示している。

研究チームでは、「遺伝的に多発性硬化症を発症しやすい人が感染症に対してより著しい免疫応答を示しやすくなるのかどうか」をテーマに、多発性硬化症のさらなる解明を続ける方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中