最新記事

遺跡

マヤ文明の遺跡400ヶ所、空からの測量で一挙発見 日本人考古学者率いる米チーム

2021年11月4日(木)18時11分
青葉やまと

航空LIDARで調査されたメキシコ南部のアグアダ・フェニックス遺跡  T. INOMATA  T. INOMATA

<自動運転でも使われるLIDARによる測量が、考古学の常識を変えつつある>

メキシコ南部、サン・ペドロ河流域に位置するアグアダ・フェニックス遺跡で、草木に埋もれた古代都市の姿が浮かび上がった。調査は米アリゾナ大学の猪俣健教授(考古学、古代マヤ文明)が主導し、10月25日付で学術誌『ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビア』に掲載された。

調査に活用されたのは航空LIDAR(ライダー)と呼ばれる技術だ。航空機またはドローンからレーザーパルスを照射し、反射波が戻るまでの時間差を測定することで地表面の高低差を導き出す。こと草木に埋もれた現地においては、藪に分け入らずとも広範囲を調査できることから、考古学の調査手法に革命的な変化をもたらしている。

研究チームはメキシコ国営の統計機関が公開しているLIDARデータを精査し、478点にのぼる構造物を新たに発見した。それぞれ盛土で囲まれた広場状の空間となっており、いずれも長方形をしている。多くは長辺の片側を構成する盛土に切り込みが入り、片側10ヶ所、計20ヶ所の区画に分割されている。

Maya-Complexes.jpg

航空LIDARで調査された地域 wikipedia

構造上、巨石人頭像が発掘されたことで知られるサン・ロレンソ遺跡と共通する特徴を有しており、文化的影響を強く受けていたことを示唆する重要な手がかりになるとみられる。

Aguada_Fénix.jpg

アグアダ・フェニックス遺跡 wikipedia

文字以前に確立していた20日単位の暦

遺跡を構成する20の盛土は、マヤ暦のひとつである20日周期の暦に通じる。このことから、今回発見された500点近くの遺構は、いずれも儀式に用いられる集会所だったと考えられている。また、多くが同じ方角に向けて建てられており、その方角はこの地域で太陽が天頂を通過する5月10日の日の出の方角と一致する。

さらに、この原則に当てはまらない遺構についても、いくつかの特定の方角に分類できることがわかってきた。それらは5月10日を基準とし、その40日前・60日前・80日前・100日前など、20日単位で日の出の方角と向き合うように設計されている。各遺構を構成する20区画の盛土とあわせ、20という数字に人々が特別な意味を見出していたことをうかがわせる。

放射性炭素年代測定により、遺跡は紀元前1000年から同800年のあいだに建造されたものと推定されている。マヤのピラミッドよりも、さらに1500年ほど前の年代だ。今回の発見は、まだマヤ文明が文字をもたなかった当時において、すでに20日単位の暦が確立していたことを示唆するものだ。

貴重な発見が続くアグアダ・フェニックス遺跡

教授らのチームは昨年、同じアグアダ・フェニックス遺跡において、長さ1キロ以上にわたる大規模な台地状の遺構を発見している。遺跡は粘土と土でできており、幅400メートル、長さ1400メートルの規模だ。盛り土の高さは10〜15メートルほどとなっている。グリッド状に走る9本の主要な道が台地へとつながっており、周囲には溜池がいくつか設けられていた。

この人工の台地に人々が集まり、儀式を行っていたのではないかというのが猪俣教授の見立てだ。ヒスイでできた手斧など象徴的なものを台地中央に祀った可能性もあると教授は考えている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

LSEG、金融データをチャットGPTに統合へ AI

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、日銀利上げ見通しで一

ワールド

香港当局、高層住宅火災受け防護ネット全面撤去へ

ワールド

インドネシア、採掘規則違反企業を処分へ 洪水で死者
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中