最新記事
日本社会

有権者に届かない政治家の言葉を言語学的視点から考える

2021年10月29日(金)19時10分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学教授、日本語日本文学博士)

数年前に総務省が行った18歳選挙権に関する意識調査(男女3000人)では、選挙の情報収集について「インターネットのニュースサイト」や「街頭演説」よりも、「テレビのニュースや報道番組」「政党や候補者のポスター」と回答した割合が高かった。

ここもやはり若い世代の関心向上という課題において視覚的手段が、伝える言語によるメッセージ性の影響力よりも高いことがうかがえる。ちなみに同調査の別の質問では、投票に行かなかった理由として「選挙にあまり関心がなかったから」の割合が高かった。

そもそも私たちは何かに関心を向けると、認知力とその効果が高まる。そして、注意力や集中力を結集することによって、周りで起きていることに気づかないことがある。同様に、有権者が候補者や政党が発するメッセージ(情報)を認知するためには、集中的にその情報に注意を向ける必要があるようだ。

処理する情報が複雑で難解であればあるほど、より多くの注意力や集中力、認知的労力が必要になり、それ以外の情報に注意を向けることは困難となる。そのため、候補者や政党が真剣に訴えようとしている内容やメッセージを理解するのを途中で放棄してしまうことが多い。

「人たらし」の不在

このような言語の認知システムの特徴を考えると、人間の言語的情報処理や解釈は自分にとって価値のあるものしか選択しないことに気づく。つまり注意を向けるなら、それなりの効果や見返りが欲しくなるのは人間の認知システムの本質である。そして、その注意を引く認知的効果次第で投票への関心が高まったり下がったりする。

複雑な構造のようで、極めてシンプルな話である。自分にとって身近で期待できる言葉にこそ価値を見出すこと、それが人間の求める情報と言葉の関係である。

リーダーとして武将や部下からも信頼の厚かった豊臣秀吉の魅力について、司馬遼太郎はこう記している。「人たらしの天才」と。人とのボーダーレスの力を秘めたこの「人たらし」という資質こそ日本のリーダーの強みのはずであるが、今のこの時世では類稀なる資質であろう。

almomen-shot.jpg【執筆者】アルモーメン・アブドーラ
エジプト・カイロ生まれ。東海大学・国際教育センター教授。日本研究家。2001年、学習院大学文学部日本語日本文学科卒業。同大学大学院人文科学研究科で、日本語とアラビア語の対照言語学を研究、日本語日本文学博士号を取得。02~03年に「NHK アラビア語ラジオ講座」にアシスタント講師として、03~08年に「NHKテレビでアラビア語」に講師としてレギュラー出演していた。現在はNHK・BS放送アルジャジーラニュースの放送通訳のほか、天皇・皇后両陛下やアラブ諸国首脳、パレスチナ自治政府アッバス議長などの通訳を務める。元サウジアラビア王国大使館文化部スーパーバイザー。近著に「地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人」 (小学館)、「日本語とアラビア語の慣用的表現の対照研究: 比喩的思考と意味理解を中心に」(国書刊行会」などがある。

ニューズウィーク日本版 高市vs中国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「高市vs中国」特集。台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

キューバに石油供給する国に関税発動へ、トランプ氏が

ワールド

トランプ氏、英国の中国接近をけん制 「非常に危険」

ワールド

トランプ氏、カナダ製航空機への関税警告 認証取り消

ビジネス

米GM、カナダの工場で500人削減 労組はトランプ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 9
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 10
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中