最新記事

日本社会

有権者に届かない政治家の言葉を言語学的視点から考える

2021年10月29日(金)19時10分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学教授、日本語日本文学博士)

政党の訴える内容はさまざまであるが、2種類の語彙的パターン(性質)や意味的カテゴリーに分けることができる。意味的カテゴライズでは、1つは政党がこれまで成し遂げてきたことのアピール(与党)、もう1つは、これからやっていく、実現していく政策や目標などといったところである。

しかし、与党や野党のどちらにしても、国民目線と言いながら、語っている言葉のほとんどが大局的・マクロ的視点による公約や目標(社会保障、気候変動、積極的財政など)が多い。

候補者が訴える内容の気持ちを伝える語彙的カテゴリー(語彙の種類)でも、2パターンの使用が見られる。1つは、「国難を乗り越える」「国民に寄り添う」「日本の未来を描きます」のように比喩的意味の言葉で、もう1つは「デジタル化」「気候変動」「積極的財政」などのように専門性の高い語彙(専門語)である。

しかし、この2パターンの語彙的表現のいずれも有権者にとって、候補者の考えやビジョンが容易に受け取れるものではないようだ。特に若い世代には難しく感じる可能性が高いだけでなく、「どうせみんな同じことを言っている、守るって何?そんな大きな話は私に関係ない」と逆に失望の気持ちを肯定化してしまう可能性もある。

気持ちを鼓舞する内容ではない

もう1つの特色としては、未来へのポジティブ思考より「暗い」あるいは「辛い」現実を連想させる言葉が多い。投票に行かない、あるいは行ってもしょうがないと考える若い世代に響くような内容と思えないものだ。未来に向けて、ミクロ的な視点で語りかける立候補者や政党が全くいないわけではないが、やはり、多くの言葉が気持ちを鼓舞する内容ではないことは確かである。

言葉の意味が分かれば、必ずしも相手とのコミュニケーションがうまくいくというわけではない。話し手が使った言葉の意味は分かっても、話し手の伝えたかったことが分からないという経験は誰にもあるだろう。

それはなぜだろうか。1つの可能性としては、既に存在する言葉を活用してもうまく伝えられない思いや発想などがあるからであろう。そしてうまく伝えられない時、私たちは比喩表現を使ったり新しい言葉を組み合わせたりすることが多い。これは相手の共感を得るための、「共感覚比喩」と呼ばれる言語的手法である。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

MUFG、今期純利益1兆5000億円を計画 市場予

ビジネス

焦点:マスク氏のスペースX、納入業者に支払い遅延 

ビジネス

ペイペイのシステム障害、サイバー攻撃の有無含め調査

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中