最新記事

パンデミック

ワクチン接種率84%のシンガポール、規制緩和で感染者・死者が過去最高を記録

2021年10月25日(月)18時53分
シンガポールのワクチン接種会場

経済的に豊かなシンガポールは、国民の新型コロナウイルスワクチン接種を積極的に進めた結果、パンデミックと格闘する多くの国がうらやむほど高い接種率を達成した。シンガポールのワクチン接種会場で3月撮影(2021年 ロイター/Edgar Su)

経済的に豊かなシンガポールは、国民の新型コロナウイルスワクチン接種を積極的に進めた結果、パンデミックと格闘する多くの国がうらやむほど高い接種率を達成した。ところが、足元で新規感染者数と死者数は過去最高を記録。社会にとってさまざまなリスクが残り続けることを示唆している。

シンガポールではマスク着用が義務付けられ、行動規制がなお厳しい上に、追加接種も始まった。それでもデルタ株が主体となっている直近の感染拡大局面における死者は、9月初めの55人から280人に増えた。

「これから規制措置が次第に緩和されるとともに、シンガポールはもう2回か3回、感染拡大の波を経験するかもしれない。それまで死者数は恐らく増加し続ける。まだ、ワクチンを打っていない多くの高齢者が接種可能となるか、追加接種がより普及しない限りは」とシンガポール国立大学の疾病モデリング専門家、アレックス・クック氏は話す。

シンガポールは、幾つか存在するいわゆる感染ゼロ国の1つ。世界屈指の厳格な規制措置を実行し、新規感染者と死者を他国・地域よりずっと少ない数に抑え込んできた。こうした規制は、全人口550万人の大半が接種を終えてから、徐々に規制を緩めて経済活動を再開させる戦略の一環だった。

そして今、そろりと国境を再開し、ワクチン接種を条件に入国者の隔離を不要とする先を10カ国余りまで拡大している。オーストラリアとニュージーランドも同様の段階に移行。中国は、まだそこまで踏み切っていない。

ただ、当局が直面する問題は、特にデルタ株が世界的な主流となった後、どうやって高齢者や免疫力の弱い人々の感染急増を防ぐかにある。クック氏は「私がオーストラリアやニュージーランド、中国の政策担当者なら、シンガポールで起きた事態を調査・研究するだろう」と述べた。

シンガポールで接種に利用されたワクチンはファイザー/ビオンテック製とモデルナ製が大半。接種率は84%に達しているものの、ワクチンは最も脆弱な人々を守ってはくれないかもしれない。

過去1カ月間の死者のうち、ワクチン接種を完了した人の比率は約30%。そのほとんどは基礎疾患がある60歳以上の高齢者だった。これは、高齢者と重病者ではワクチンで得られる防御力が低くなるという複数の臨床試験結果と一致する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピンCPI、6月は前年比+1.4% 中銀に利

ワールド

緑の気候基金、途上国のプロジェクト17件に12億ド

ワールド

トランプ氏、大型減税法案可決をアピール アイオワ州

ワールド

IMF、スリランカ向け金融支援の4回目審査を承認
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    「成長神話」の終わり...GDPの3つの限界、その指標は…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中