最新記事

気候変動

中東は世界の2倍ペースで気温上昇中...無策な政府、紛争、貧困という絶望

NO LONGER LIVABLE

2021年9月9日(木)17時08分
アンチャル・ボーラ(レバノン在住ジャーナリスト)

210914P44_KHD_02.jpg

イエメンの首都サヌアで水の配給を受ける少年ら MOHAMMED HAMOUD/GETTY IMAGES

イラン南西部フゼスタン州では、水不足に抗議するデモ隊が道路を封鎖しタイヤを燃やす事態に。当局の発表では州治安部隊の発砲で少なくとも3人が死亡したというが、実際はもっと多いと人権活動家らは指摘する。

人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「ソーシャルメディア上でシェアされている動画には、治安当局が火器や催涙ガスを使用しデモ隊に発砲する様子が写っている」として調査を要求している。

シリアでは06~11年の干ばつで農村部と都市部の社会経済的格差が拡大し、それも内戦の一因になったと考えられている。

イエメンでは内戦の長期化が水危機を深刻化させているようだ。イエメンは地下水源の急速な枯渇で水不足にあえいでいる。人口1人当たりの年間水資源賦存量(人間が最大限利用可能な水の量)は世界平均の7500立方メートルに対し、わずか120立方メートル。以前は水資源省が井戸の掘削に条件を課していたが内戦で監視できなくなり、もともと乏しい水資源が過去10年間で急速に枯渇した。

地域協力によって中東の水不足を軽減し、カーボン・フットプリント(CO2排出量)を削減することが可能だと、ストックホルム国際平和研究所のヨハン・シャール准上級研究員は主張する。

「地域協力という点では共通の水資源の利用と管理について合意することが何より重要だ。極端な気象現象が原因で、今後これらの水資源は、河川も地下水も、一層希少かつ不安定になるだろう」と、シャールは言う。

「水に関して2国間の国境を超えた合意はほとんどなく、複数の国にまたがる河川の流域全体の合意は皆無だ。アラブ連盟の水資源閣僚会議は数年前に共通の水資源に関する地域条約を起草したが、批准されなかった」

長引く紛争が地域協力を阻む

中東諸国は紛争で手いっぱいで、共通資源の利用をめぐって協力するどころではない。「どの国も(温室効果ガスの)排出削減のための投資はわずか」だとシャールは言う。

「その上、紛争や社会不安や制裁が気候変動に適応するニーズと能力に影を落としている。国民は紛争で家を失って困窮し、気候変動の打撃を受けやすくなる。社会不安は、長期的な計画と投資のためのリソースと政策の余地を減少させる」

気候変動と「アラブの春」がもたらした革命・内戦との関連性が盛んに論じられている。だが、お粗末な統治、ずさんな環境管理、都市化、水道やエアコンなどの設備が不十分な地域の社会不安──とも明らかに関連がある。気候変動の影響で生活が苦しくなれば、これらの都市で何が起きるか、考えると恐ろしい。

「ただでさえ紛争に苦しむこの地域が極端な気候に襲われると、その結果、例えば移住を決意する人が増える」と、マックスプランク研究所のレリフェルトは指摘する。新たな中東危機の始まりだ。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 トランプの帝国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月10号(2月3日発売)は「トランプの帝国」特集。南北アメリカの完全支配を狙う新戦略は中国の覇権を許し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南山」、そして「ヘル・コリア」ツアーへ
  • 4
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 5
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 8
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「こんなのアリ?」飛行機のファーストクラスで「巨…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中