中東は世界の2倍ペースで気温上昇中...無策な政府、紛争、貧困という絶望
NO LONGER LIVABLE
トルコ西部で起きた山火事(7月28日) Kaan Soyturk-REUTERS
<もはや気温50℃超えは当たり前に。水不足に加えて電力不足でエアコンも使えず、難民大量発生の懸念も>
この夏、中東の風光明媚な国々は灼熱地獄となった。極端な気温上昇と深刻な干ばつがこの地域を襲い、森林は燃え上がり、都市は文字どおりのヒートアイランドと化し耐え難い熱気に包まれた。
クウェートでは6月にこの夏最高の53.2度を記録。オマーン、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアでも最高気温が50度を超え、1カ月後にはイラクで51.6度、イランでも51度近い猛暑となった。
これはほんの序の口だ。
中東では世界の平均の2倍も気温が上昇している。人類を救うには気温の上昇を1.5度までに抑える必要があると言われているが、中東ではこのままいけば2050年までになんと4度も上がる見込みだ。
極端な気候条件が日常的になり、中東の主要都市は年間4カ月、殺人的な猛暑に見舞われることになると、世界銀行は予測している。ドイツのマックスプランク研究所によると、今世紀末までに中東の多くの都市は人が住めなくなる可能性がある。戦争で荒廃し、宗派対立に引き裂かれてきた中東。地域全体を脅かす気候変動に対処するには、各国の現状はあまりにお粗末だ。
真っ先に犠牲になるのは貧困層
中東諸国は所得格差が極端に大きく、豊かな産油国でも暑さで死なないために最低限必要な水や電気などの基本的なサービスが十分に行き渡っていない。猛暑が続けば社会の混乱は避けられず、そうなると真っ先に犠牲になるのは貧困層だ。
どの国もほぼ軒並み、行政システムは非効率で、エネルギー・インフラはガタガタだ。根深い構造的な欠陥が再生可能エネルギーの利用推進を妨げ、エネルギー転換に必要な技術も育っていない。
今の中東諸国に必要なのは行政システムを強化する政治改革、そして企業の自由な発想を促す経済改革で、それなしには二酸化炭素(CO2)の排出削減とクリーンエネルギーへの転換は望めないと、専門家は言う。
怖いのは基本的なサービスが行き渡らないまま極端な猛暑が続く事態だ。人々の暮らしはさらに耐え難いものとなり、治安がさらに悪化すると、専門家は懸念している。
中東では過去30年間に温室効果ガスの排出量が3倍以上増えた。気候変動の「影響を特に強く受けている」にもかかわらず、中東は温室効果ガスの排出量でEUを上回っていると、地中海・中東気候に詳しいマックスプランク研究所のヨス・レリフェルトは嘆く。
「中東の諸都市では気温が優に50度を超え、このままでは将来的に60度に達しかねない。そうなればエアコンが利用できない人は命の危険にさらされる」
イラン、イラク、レバノン、シリアやイエメンなどでは比較的豊かな人たちにとってもエアコンは高根の花だ。これらの国々では戦争や欧米の制裁、利権を貪る支配層にたたられ経済が疲弊。干ばつで農地が干上がり、水も食料も不足する状況に人々の不満が爆発し、大規模なデモが起きている。気候変動の影響が深刻化するにつれ、事態がさらに悪化するのは目に見えている。