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1人の子供がいじめられ続けることで、全体の幸せが保たれる社会...「神学」から考える人権

2021年9月2日(木)12時12分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

■「この世界のありのままの現実」と究極的リアリティ

田村: 「この世界のありのままの現実」って何?

今日の冒頭、先生は「究極的リアリティ」〔※編集部注:物理的現実を超越した現実〕について触れました。遠藤さんが言う「この世界のありのままの現実」は、少なくとも私にとっては「究極的リアリティ」ではありません。聖書のコリントの信徒への手紙二の4章18節に、「わたしたちは見えるものではなく、見えないものに目を注ぎます。見えるものは過ぎ去りますが、見えないものは永遠に存続するからです」と書いてある通りです〔※編集部注:田村はキリスト教徒〕。

究極的リアリティにおいて、人には尊厳があるんです。だから私は、どんなに小さく無力な人でも、虐待されたり、拷問されたりしてはいけないと思います。

教授: 社会全体の幸福のためであっても?

田村: はい。

遠藤: それはなぜ? 最初のトピックに戻るけど、人権や、その土台になっている人間の尊厳は、「発見」なのか「発明」なのか。人権や人間の尊厳は、社会をうまく回すために人間がつくり上げた概念、つまり「発明」に過ぎないよ。社会全体の幸福や利益のために、「建前として、ある」ということにすると、人の尊厳は社会的に約束されたものでしかない。(略)

教授: 今日取り上げた二つの話は、いろんな解釈ができるでしょう。

私にとって、この二つの話は、人権や、人間尊厳の在りかたについての問いかけです。人権や人間の尊厳は、社会を動かすために人間がつくり上げた概念なのか、それとも、それらは人間の理性以上の存在としてすでにあり、人間は歴史の流れのなかで、それをただ見つけた、気づいた、と考えるべきなのか、という問いです。

皆さんの多くが、人権や人間の尊厳は、社会全体の利益を促すもので、そのために考案されたもの、つまり「発明」であると考えました。しかし、私は思うのです。人権は社会にとってそんなにいつも都合が良いものであるとは、言えないのではないか。たとえば、オメラスの話に戻ると、一人の子どもの人権を守るために、社会全体の幸福の形について反省し、それを変えていく努力が必要な場合もありえると思います。

この問いに対して正解は一つであるとは言えません。ただ、皆さんがどのような選択をしていくかについて、じっくり考えることは有意義です。その際、神学、いわゆるキリスト教の価値観と世界観について学ぶことは、きっと助けになりますよ。

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