北京早くも東京五輪を利用し「送夏迎冬」――北京冬季五輪につなげ!
その考察では8月6日までの統計を拾ってグラフ化したが、7日と8日のデータを加えると、やや増加傾向にある。それを図2として示す。
国家衛生健康委員会のデータよりピックアップ
わずかではあるが、やや増加傾向にあることは確かだろう。
これは江蘇省揚州市にある麻雀荘を中心として広がっているもので、中国は定年が早く、まだ元気な高齢者が暇を持て余して麻雀に耽(ふけ)ることが多い。高齢者はスマホを持っていない場合も手伝い、中国のデルタ株感染拡散もまだ予断を許さない状況だ。おまけに感染力が大きいハイリスク地区は15ヵ所になり中程度のリスク地区は201ヵ所に増えた。この値は時々刻々増えているので、北京はほぼ「厳戒態勢」に入っている。
ハイリスクおよび中リスク地区からの北京入りは原則許さないという非常に厳しい「入京制限令」が出ているのだ。これも時々刻々変わっているので、今後どうなるかは何とも言えない。
いずれにしても北京は2020年初頭の中国におけるコロナ発症が収束して以降、「新規感染者はゼロ」を保ってきたので、デルタ株の突然の広がりに関しては尋常ではない警戒を示している。
特に習近平としては、どんなことがあっても北京冬季五輪を「更団結」に持って行きたいからだろう。
首都機能と経済活動の集中度
中国でこれができるのは、行政としての首都「北京」と、経済活動の拠点都市が分離されているからだ。
2021年4月14日のSTATISTAというウェブサイトは Where Capital Cities Have The Most Economic Clout (最も経済的影響力のある首都はどこか)というタイトルでNiall McCarthy氏の論考を載せている。
そこにはOECD(Organisation for Economic Cooperation and Development、経済協力開発機構)のデータとして、いくつかの首都を取り上げ、その国のGDPの何パーセントに首都の経済活動が寄与しているかを示した図表がある。
それを以下に示す。
図3:最も経済的影響力のある首都はどこか
STATISTAのウェイブサイトから引用
これを見ると、東京は日本全国のGDPの33.3%を占めているのに対して、北京の場合は3.3%しか占めていない。したがって北京の人流を完全にブロックしても中国全体の経済活動にあまり影響を与えないので、「北京のコロナ新規感染者ゼロ」という状態を保つことができる。
しかし日本は経済活動も教育も行政も、何もかも東京に一極集中しているので、たとえ法的に許されてもロックダウンをしてコロナ感染を食い止めるということが困難だという側面も否めない。
高笑いをするのは習近平か
その東京でコロナ感染の緊急事態宣言が出ている中、世界中からアスリートを招致したのだから、爆発的感染をもたらさない方がおかしいだろう。
このOECDのデータとコロナ下での五輪開催を照らし合わせると、東京の極端な一極集中の抜本的改善がないと、今後もさまざまな問題を生み続けるかもしれないと、ふと思う。
いずれにしても、日本は結局、「更団結」を掲げた習近平の高笑いを許す大事業をしてあげたことにつながる。
グローバルな視点で見ると、そういうことが言える。
無念でならない。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら