最新記事

中国

北京早くも東京五輪を利用し「送夏迎冬」――北京冬季五輪につなげ!

2021年8月10日(火)10時49分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

その考察では8月6日までの統計を拾ってグラフ化したが、7日と8日のデータを加えると、やや増加傾向にある。それを図2として示す。

endo20210810092302.jpg
国家衛生健康委員会のデータよりピックアップ

わずかではあるが、やや増加傾向にあることは確かだろう。

これは江蘇省揚州市にある麻雀荘を中心として広がっているもので、中国は定年が早く、まだ元気な高齢者が暇を持て余して麻雀に耽(ふけ)ることが多い。高齢者はスマホを持っていない場合も手伝い、中国のデルタ株感染拡散もまだ予断を許さない状況だ。おまけに感染力が大きいハイリスク地区は15ヵ所になり中程度のリスク地区は201ヵ所に増えた。この値は時々刻々増えているので、北京はほぼ「厳戒態勢」に入っている。

ハイリスクおよび中リスク地区からの北京入りは原則許さないという非常に厳しい「入京制限令」が出ているのだ。これも時々刻々変わっているので、今後どうなるかは何とも言えない。

いずれにしても北京は2020年初頭の中国におけるコロナ発症が収束して以降、「新規感染者はゼロ」を保ってきたので、デルタ株の突然の広がりに関しては尋常ではない警戒を示している。

特に習近平としては、どんなことがあっても北京冬季五輪を「更団結」に持って行きたいからだろう。

首都機能と経済活動の集中度

中国でこれができるのは、行政としての首都「北京」と、経済活動の拠点都市が分離されているからだ。

2021年4月14日のSTATISTAというウェブサイトは Where Capital Cities Have The Most Economic Clout (最も経済的影響力のある首都はどこか)というタイトルでNiall McCarthy氏の論考を載せている。

そこにはOECD(Organisation for Economic Cooperation and Development、経済協力開発機構)のデータとして、いくつかの首都を取り上げ、その国のGDPの何パーセントに首都の経済活動が寄与しているかを示した図表がある。

それを以下に示す。

図3:最も経済的影響力のある首都はどこか
endo20210810092303.jpg
STATISTAのウェイブサイトから引用

これを見ると、東京は日本全国のGDPの33.3%を占めているのに対して、北京の場合は3.3%しか占めていない。したがって北京の人流を完全にブロックしても中国全体の経済活動にあまり影響を与えないので、「北京のコロナ新規感染者ゼロ」という状態を保つことができる。

しかし日本は経済活動も教育も行政も、何もかも東京に一極集中しているので、たとえ法的に許されてもロックダウンをしてコロナ感染を食い止めるということが困難だという側面も否めない。

高笑いをするのは習近平か

その東京でコロナ感染の緊急事態宣言が出ている中、世界中からアスリートを招致したのだから、爆発的感染をもたらさない方がおかしいだろう。

このOECDのデータとコロナ下での五輪開催を照らし合わせると、東京の極端な一極集中の抜本的改善がないと、今後もさまざまな問題を生み続けるかもしれないと、ふと思う。

いずれにしても、日本は結局、「更団結」を掲げた習近平の高笑いを許す大事業をしてあげたことにつながる。

グローバルな視点で見ると、そういうことが言える。

無念でならない。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 脳寿命を延ばす20の習慣
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月28日号(10月21日発売)は「脳寿命を延ばす20の習慣」特集。高齢者医療専門家・和田秀樹医師が説く、脳の健康を保ち認知症を予防する日々の行動と心がけ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア凍結資産、ウクライナ支援に早急に利用=有志連

ビジネス

NY外為市場=ドル小動き、米利下げ観測維持 CPI

ワールド

トランプ氏、貿易に焦点 習氏との首脳会談で=米高官

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、予想下回るCPI好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中