最新記事

コロナ禍

デルタ株が母親の復職阻む 新学期の授業再開不透明に

2021年8月9日(月)11時14分
米ペンシルベニア州の児童らとスクールバス

米景気回復ペースが速まるためには、秋に対面授業が再開され、労働者の職場復帰が増えなければならない。しかしデルタ株流行で、保護者、特に女性が復職しなかったり、フルタイムで働けなかったりすれば、期待は裏切られるだろう。写真は児童らとスクールバス、ペンシルベニア州のアレンタウンで撮影(2021年 ロイター/Hannah Beier)

新型コロナウイルスの流行で昨年接客業を解雇されたサラ・ガードさん(40)は今年4月、約1年ぶりに金融サービス業の仕事を見つけ出し、フルタイムで働きながら、なんとか6歳の娘に自宅でオンライン学習をさせていた。

ジョージア州アトランタの少し北にある娘の学校から、8月に始まる新学期では対面授業も選択できるとの連絡があった際は、正しい判断だと思ってその申し出を受け入れた。

しかしそれも感染力の強いデルタ株で感染者数が急増するまでのことだった。娘の学区はマスク着用を強く推奨しているが、義務ではなく、娘はワクチンが接種できる年齢に達していない。娘への感染の不安をぬぐえないまま、ガードさんは思い悩み、夜も眠れない日々が続いている。

対面授業を受けず今からオンライン学習に切り替えることは可能だが、そうなれば何かを犠牲にせざるを得ない。

夫は病院に勤務し、ガードさんは勤め先から職場で働く日数を増やすよう求められている。「私か夫のどちらかは仕事を続けられない。ストレスで死にそう」とガードさんは訴える。

米景気回復ペースが速まるためには、秋に対面授業が再開され、労働者の職場復帰が増えなければならない。しかしデルタ株流行で、保護者、特に女性が復職しなかったり、フルタイムで働けなかったりすれば、期待は裏切られるだろう。

パウエル連邦準備理事会(FRB)議長も28日、「学校が開始されないと保護者は在宅せざるを得ず、人々が労働市場に戻らなければ雇用の力強い伸びは見込めない」と述べ、オンライン授業の長期化に警戒感を示した。

コロナ禍再燃か

労働省が企業や家計を対象に実施した調査によると、米国では求人数が過去最高だが、雇用数はコロナ流行前に比べてまだ約700万人も少ない。

雇用回復はコロナ流行初期に失業の割合が高かった女性で特に顕著だった。夏までに多くの女性が労働市場に復帰したが、昨年8、9月にほとんどの学校がオンライン授業のみの再開となり、子供たちが家にとどまったため、20歳以上の女性100万人以上が離職した。

今年の再就職者数は女性が男性を上回っている。高学年での対面授業の増加、女性が多い業界の経営再開が背景にある。

しかし学校再開の見通しがまた不透明になり、女性の復職は勢いを失う恐れがある。

学区が対面授業を再開する際の感染対策にはばらつきがある。学校再開状況の調査サイト、バービオがまとめたデータに基づくと、学校で生徒のすべて、もしくはほぼすべてにマスク着用を義務付けているのはカリフォルニア州など8つの州で、ボストンやシカゴなど多くの大都市でも同じ措置を取っている。一方、テキサス州など8つの州は学齢期の子供の25%について、マスク着用の義務化を認めてない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧米の開発援助削減、30年までに2260万人死亡の

ワールド

米、尖閣諸島を含め日本の防衛に全面的にコミット=駐

ビジネス

インド10月貿易赤字、過去最高の416.8億ドル 

ビジネス

原油先物が下落、ロシアが主要港で石油積み込み再開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中