【モデルナCEO独占取材】mRNAワクチンはコロナだけでなく医療の在り方を変える
CHANGING MEDICINE FOREVER
――最近は、ウイルスが武漢の研究所から誤って流出した可能性が高いと報じられている。本誌は20年4月に、この可能性をいち早く報じていた。それについてどう思うか。
可能性はあるだろう。今の段階では、何が起きたのか確信できるデータはない。
しかし可能性として、ウイルスは動物由来かもしれない。中国では生きている動物が市場にたくさん出回っていて、人間のすぐ近くにいる。生きたまま連れて帰り、何日も何週間も家で飼うこともある。ウイルスが種を飛び越えるという意味で、好ましくない状況だ。
もう1つ言えるのは、P4(病原体レベル4)研究所の存在だ。世界最高水準のバイオセキュリティーを備えた研究所だ。そして、人間は間違いを犯す。どんな仕事であれ、人間はミスをする。
――研究所で重く複雑な防護服を着て作業をしていた技術者が誤って防護服を傷つけ、気付かずに感染する可能性は?
世界中どこでもあの手の研究所ではその可能性はある。感染して帰宅し、家族にも感染を広げるかもしれない。潜伏期間のせいで感染していることにさえ気付かないせいだ。それから1~2週間ひそかに感染が広がっていく。冬に一部の若者に風邪のような症状が出ても、誰も驚かないだろう。入院するケースが複数出るまでさらに2週間、まずい状況だと気付かれないまま感染が拡大する可能性がある。その頃には既にウイルスが研究所の外に広がってパンデミックが起きている。
だから可能性としてはある。武漢の研究所での人為的ミスでウイルスが流出したと確信できるか。あるいは市場から広がったという説か。どちらかがより信憑性があると考えるに足るデータはない。だが可能性としてはイエスだ。
――新型コロナの感染拡大が起きていなければ、モデルナの事業展開はどのような経緯をたどっていたか。
コロナ前の計画では24~25年に初のワクチン、サイトメガロウイルス(CMV)ワクチンを発売する計画だった。CMV感染による先天性異常の頻度は、アメリカをはじめ世界各地でダウン症を上回ってトップだ。本来なら臨床試験を開始してより多くの薬を臨床の場に送るのは数年先のことで、そのために1年か1年半か2年ごとに資金を調達していただろう。商品化して成功している他のバイオテック企業は、どこもそうしている。