最新記事

インタビュー

【モデルナCEO独占取材】mRNAワクチンはコロナだけでなく医療の在り方を変える

CHANGING MEDICINE FOREVER

2021年8月5日(木)18時18分
デブ・プラガド(ニューズウィーク社CEO)

――あなたは数十年ではなく、数年以内に癌を治せるようになると言っていた。mRNAは癌の治療にどう役立つのか。

この10年間、2つの驚くべき科学的発見があったと私は考える。この発見は既に製薬業界の癌に対する見方を変えている。1つ目は、癌はDNAの病気であるという理解が十分に進んだこと。癌細胞は基本的に「異常な」細胞のことであり、DNAに突然変異が起きて自然な細胞、健康な細胞とは違うものになる。

2つ目の発見は、白血球の中のT細胞が(テレビゲームの)パックマンのように癌細胞を食べることだ。

この2つの発見で、業界全体が大きく前進している。科学の基礎的な発見を基に、医薬の応用として何ができるかが見えてきた。まさに今、私たちはそれを実現させようとしている。現在は5つの薬の臨床試験を進めている。

その中に、ワクチンを使って、免疫システムが見失った癌細胞の目印を教えようという試みがある。体内に出現した癌細胞を免疫システムが食べることができなくなって、癌を発症するのだ。

病気として発症しなくても、全ての人が生涯に何回も癌になっている。健康で、よく眠り、よく食べて、健康な免疫システムを維持していれば、癌細胞を早いうちに、パックマンのように食べてしまう。そうすれば、大きな腫瘍細胞に成長することも、転移して全身に広がることもないだろう。

そこで、癌ワクチンを使って、癌の突然変異を免疫系に教え込むというアプローチがある。癌細胞のDNAの遺伝子変異は、例えば離婚や子供を亡くすなど、人生で大きなストレスを経験したために免疫系が気付かなかった変異だ。人生で何かトラウマを経験してから10年後に、癌になることも多い。

私たちが行っているもう1つのアプローチが、mRNAを腫瘍に直接注入して、腫瘍内でタンパク質を生成しようというものだ。ただし、非常に強力で厄介な分子のため、通常の静脈注射で全身に投与すると、かなり深刻な状態になる。しかし、腫瘍に注入すれば、ごく局所的に投与できる。生体検査の組織採取のような手法だが、針を引き抜くのではなく、物質を腫瘍に押し込む。

私たちのmRNA医薬品とほかの癌治療薬を組み合わせて、癌患者にとってよりよい反応を得ようとしている。「治す」という言葉が当てはまるかどうかは分からない。私たちの業界では非常に繊細な言葉だ。

しかし、癌になってもかなり健康的な生活を送ることができる、そういう治療の段階には進めるだろう。癌が治る人もいるかもしれない。免疫療法がうまくいって、実際に治る人もいる。あるいは糖尿病と共存するように、癌と共存できるようになるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米朝首脳会談、来年3月以降行われる可能性 韓国情報

ワールド

イスラエル、ハマスから人質遺体1体の返還受ける ガ

ワールド

米財務長官、AI半導体「ブラックウェル」対中販売に

ビジネス

米ヤム・ブランズ、ピザハットの売却検討 競争激化で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中