最新記事

東京五輪

元男性が女子の重量挙げに出るのは不公平じゃないの? 五輪史上初のトランスジェンダー選手にくすぶる批判

Who Is Laurel Hubbard? Weightlifter and First Olympic Transgender Athlete

2021年8月2日(月)15時36分
サマンサ・ロック
五輪初のトランスジェンダー選手、ローレン・ハバード

IOCの規定をクリアし女子選手として出場するニュージーランドのローレン・ハバード Paul Childs-REUTERS

<重量挙げのローレン・ハバードは男子として国内ジュニア記録を打ち立てた選手。女性になってもその自分を自分らしく貫きたいだけ──しかし、それと戦わされる女子選手の人生や気持ちは?>

東京五輪には、男性から女性に性別変更したことを公表したトランスジェンダーの選手が史上初めて出場している。ニュージーランドの重量挙げ選手、ローレル・ハバード(43)だ。

ハバードは8月2日、重量挙げ女子87キロ超級の予選に出場する。現在43歳で、今大会の重量挙げ競技に参加した選手の中で最年長でもある。

ハバードは1978年2月、ニュージーランドのオークランドで生まれた。父は穀物会社の経営者で、2004~08年にはオークランド市長も務めた人物だ。

重量挙げを始めたきっかけについてハバードは、自分は男だと自分に言い聞かせるために「いかにも男らしい」スポーツを選んだ、と語る。

「すごく男っぽいことに挑戦すれば、そうなれるのではないかという気持ちがたぶんあった」と、2017年に地元ラジオ局の取材に語っている。「だが残念ながら、そうはならなかった。思惑通りにいけば、人生で最も暗かったあの時期が、多少なりとも過ごしやすくなるかもしれないと思ったのに」

1998年、20歳の時に男子選手(105キロ超級)としてニュージーランドの国内ジュニア記録を打ち立てた。バーベルを床から一気に頭上まで持ち上げる「スナッチ」と、いったん肩の高さまで持ち上げてから頭上に持ち上げる「クリーン&ジャーク」のトータル300キロという記録だった。

だが3年後の2001年、ハバードは競技から引退する。「私のような人間のために作られたわけではないに違いない世界に自分を合わせなければならないプレッシャーが大きすぎて、耐えられなくなった」

女子として世界ランキング7位に

ハバードは2012年、35歳の時に男性から女性への性移行を始めた。その後、女子選手として重量挙げ競技に出場するようになる。

2017年には「ローレル・ハバード」の名で初めて国際大会に出た。オーストラリアで行われた大会で女子の最も重い階級に出場し、スナッチ123キロ、クリーン&ジャーク145キロのトータル268キロで優勝。男子選手時代に出したジュニア記録の300キロを大きく下回っていたが、女子の2位の選手を19キロも上回った。

現在、ハバードは国際ウェートリフティング連盟の女子87キロ超級の世界ランキング7位だ。

そして今年6月、ハバードは東京五輪のニュージーランド代表選手に正式に選ばれた。国際オリンピック委員会(IOC)が定めるトランスジェンダー選手の参加基準をクリアしたからだ。

それによると、トランスジェンダーの選手が女子として出場する場合、大会前の少なくとも12カ月間、テストステロンの血中濃度が1リットルあたり10ナノモールを下回っていなければならない。

「これほど多くのニュージーランドの人々から頂いた優しさと支援に感謝するとともに恐縮している」とハバードはニュージーランド・オリンピック委員会(NZOC)を通してコメントしたと、AP通信は伝えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも43人死

ワールド

ウクライナ、中国企業3社を制裁リストに追加 ミサイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    トランプに弱腰の民主党で、怒れる若手が仕掛ける現…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中