最新記事

宇宙開発

億万長者の「宇宙開発」競争は、実はこんなに世界に貢献している

Billionaires’ Pivotal Space Role

2021年7月27日(火)18時02分
グレッグ・オートリー(アリゾナ州立大学サンダーバードグローバル経営大学院教授)、ローラ・ホアン(ハーバード・ビジネススクール准教授)
宇宙船内のリチャード・ブランソン

宇宙船内で無重力を楽しむブランソン VIRGIN GALACTICーREUTERS

<決して金持ちの道楽に非ず。富豪実業家のビジョンと競争心が、宇宙開発に革新をもたらす>

「偉大な人が素晴らしいことをしようとすると、小さい者たちが阻止しようとする」。フランク・ディレイニーは小説『アイルランド』でそう書いている。イギリスの実業家リチャード・ブランソンとアマゾンの創業者ジェフ・ベゾスが、それぞれ自前の商用宇宙船で宇宙に行くと発表した際に、怒りやあら探しが出たのも無理はないのだろう。

批判の論調は、バーニー・サンダース米上院議員のツイートに凝縮されている。「地球上で最も豊かな国で、国民の半分が給料日まで食いつなぐ暮らしをしていて、医者に行くのもままならない──でも、世界一の金持ちたちは宇宙に行く!」

ブランソンは7月11日、自らが設立したヴァージン・ギャラクティックが開発した宇宙船「VSSユニティ」で宇宙空間に到達した。自分の夢をかなえただけでなく、個人による宇宙開発という待望の時代の幕開けを告げた。

ブランソンは億万長者の三つどもえ戦で勝ち名乗りを上げた。ベゾスが自ら設立したブルーオリジンが開発したロケット「ニューシェパード」でカプセル型の宇宙船を打ち上げ、ブランソンと同じ偉業を成し遂げたのは7月20日。電気自動車大手テスラモーターズの共同創業者兼CEOイーロン・マスクは、自ら設立したスペースXが開発した宇宙船「クルードラゴン」で、今年9月に民間人を地球周回軌道に乗せる「宇宙観光」を計画している。

エゴがビジネスに勢いをもたらす

彼らの宇宙飛行は、エゴを競う危険で壮大な無駄遣いにすぎず、その数億ドルを地球上でもっと有効に使えるはずだと、お決まりの批判を浴びている。

確かに究極のエゴ競争だ。しかし、エゴを追求しなければ、ビジネスの歴史はつまらないものになり、米経済ははるかに勢いを失う。

トーマス・エジソン、スティーブ・ジョブズ、オプラ・ウィンフリー。新しい産業のトレンドが生まれるときは、自己主張の強い起業家が必要だ。彼らの起業家精神と行動が建設的なものでなければ、彼らが率いる産業もろとも淘汰されただろう。

筆者(グレッグ・オートリー)はヴァージン・ギャラクティックのプロジェクトに携わり、ブランソンが2004年に同社を立ち上げた日から彼を見てきた。実際に会うと、常にその瞬間を大切にして、目の前にいる相手に純粋に集中する人だと分かる。彼と別れるときは、本物の友人になれたような気がした。

重要なのは、こうした人間性が宇宙船の設計に反映されていることだ。VSSユニティは飛行機に似た形で、操縦士が搭乗し、母船の航空機につり下げられて離陸する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 3
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中