最新記事

宇宙開発

億万長者の「宇宙開発」競争は、実はこんなに世界に貢献している

Billionaires’ Pivotal Space Role

2021年7月27日(火)18時02分
グレッグ・オートリー(アリゾナ州立大学サンダーバードグローバル経営大学院教授)、ローラ・ホアン(ハーバード・ビジネススクール准教授)

210803P34_UCY_02.jpg

地球に「帰還」したベゾスの一行 BLUE ORIGINーREUTERS

ブランソンが手掛けるシステムは、常に人間が操縦かんを握る。まるでヴァージン航空に搭乗したときのように。ヴァージンでの体験は全てがパーソナライズされた「人間的な触れ合い」だ。

一方で、ベゾスは「非人間的な」アプローチを好み、自分の試みをテクノロジーの先導に委ねる。ニューシェパードにパイロットは搭乗せず、ロケットの打ち上げからパラシュートで降下して着陸するまで、全てのプロセスが自動化されている。

ベゾスが宇宙行きの最初の切符を匿名のネットオークションにかけたことは(2800万ドルで落札された)、傲慢と見なされた。ブルーオリジンが自社とヴァージンの宇宙船の技術を比較した強気な資料を発表すると、億万長者のロケットの大きさはエゴの大きさだと揶揄された。

地球周回軌道へのロケット打ち上げ市場と衛星インターネット分野でベゾスと競争しているマスクは、ブランソンの旅立ちを現地で見送った。噂ではヴァージンの宇宙旅行を予約済みで、前払い金を払ったといわれている。

もっとも、エゴの戦いや、起業家の性格の違いが企業に与える影響は、腹も立つが興味をそそられる。

第4次産業革命の火花

億万長者が民間資本を投じて新しい産業を興し、高収入の雇用を創出して、人類のために新しい資源を開発する。あるいはジェット機やヨット、豪邸を買いあさる。あなたはどちらを見たいだろうか。

彼らのリーダーシップのおかげで、宇宙分野への民間投資は、今や公共投資を上回る。ロケットの打ち上げ費用は数十年にわたり着実に上昇していたが、競争が働いて50%以上、安くなった。

恩恵は公的部門にも広がっている。NASAと国防総省は、より高性能なロケットと柔軟性のある打ち上げスケジュールを利用できるようになり、納税者にとっては数十億ドルの節約になった。

億万長者のエゴは、それだけで新しい産業革命の先駆けとなる。金銭的、物理的、環境的な利益を超越した公共的な利益は、地球上でカネを使ってもたらされる直接的な利益を、もしかすると上回るかもしれない。サンダースの言うとおり、地球上の問題と宇宙の問題は、それほど懸け離れていないのだろう。

ブランソンやベゾス、マスクの強烈な個性は、誰も行ったことのない場所に私たちを連れて行ってくれる。宇宙に関する彼らのビジョンは、第4次産業革命の目玉でもある。

壮大なエゴが繰り広げるショーを楽しみ、可能性を想像してみようではないか。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

デンマーク、女性も徴兵対象に 安全保障懸念高まり防

ワールド

米上院可決の税制・歳出法案は再生エネに逆風、消費者

ワールド

HSBC、来年までの金価格予想引き上げ リスク増と

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中