最新記事

医療

「不老長寿」研究に巨額マネーが流入...糖尿病薬メトホルミンが若返り薬に?

2021年6月18日(金)12時02分
ニューズウィーク日本版編集部、アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)
医療分野の研究(イメージ画像)

Janiecbros-iStock

<生物にとって宿命だったはずの老化を「操作」しようとする研究やベンチャー企業に、多くの投資家たちの注目が集まっている>

加齢とともに減っていく血液中の有益な要素と、次第に蓄積して害を生む要素を明らかにすることを目指す「老化科学(ジェロサイエンス)」の注目度が高まっている。心臓病や癌、アルツハイマー病、関節炎などの個別の疾病の病因にだけ着目するのではなく、これらの病気と健康にとって最大のリスク要因である老化との関係を明らかにしようとするものだ。

近年では、巨額の投資マネーが老化科学に流れ込むようになっている。最近では、スペインの血漿製剤メーカーによる米バイオベンチャーの大型買収も話題を集めた。

米国立老化研究所(NIA)も最近、「細胞老化」に関する基礎研究への大規模な資金拠出を行う計画を発表した。「寿命を延ばすための研究に投資しようとする人は非常に多い」と、アルバ―ト・アインシュタイン医科大学老化研究所のニール・バルジライ所長は言う。「莫大な資金が流れ込んでいる」

その狙いは、老化のプロセスそのものに手を加えて、加齢との関連性が強い病気の発症を防いだり、遅らせたりすることだ。老化の生物学的メカニズムを操作することを目指す研究は、数十年前から本格的に進められている。

寿命を左右する約30%は遺伝的要因

「老化が疾病を引き起こす」と、バルジライは言う。「ポイントはそこにある。老化を止められれば、老化が疾病を引き起こすこともなくなる」。スーパーエイジャー(健康な長寿者)と呼ばれる人々に共通する「長寿遺伝子」の最初の発見者であり、長寿研究の世界的な権威であるバルジライが注目するのは、遺伝子の分野だ。

人間の寿命を左右する要因の約30%を遺伝的要因が占めていることは、1980年代後半から90年代前半の研究で明らかになっていた。93年には、回虫のDNA情報を1文字変えるだけで、寿命を3週間から6週間に延ばす実験が成功した。

老化のプロセスを操作し、医薬品によって老化のスピードを遅らせる研究は、さまざまな角度から世界中で進められている。そのなかのどれになるかは分からないが、若返り薬と言えるような新薬の第1号が認可される日はそう遠くなさそうだ。

糖尿病の治療薬メトホルミンに心臓病や癌、認知症など老化と関連した慢性疾患の進行を遅らせる効果があるかを調べる大規模な試験も予定されている。65〜79歳の患者3000人を対象に、5000万ドルの予算をかけて6年に及ぶ追跡調査を行う計画だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ポーランドの新米基地、核の危険性高める=ロシア外務

ビジネス

英公的部門純借り入れ、10月は174億ポンド 予想

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 被害状
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中