最新記事

韓国

徴用工訴訟、ソウル地裁の却下判決 韓国法曹会は正反対の判決に動揺広がる

2021年6月17日(木)17時30分
佐々木和義
文在寅

18年10月判決で司法の独立性を主張した文在寅政府は、沈黙を守っている REUTERS/Sarah Silbiger

<韓国人「元徴用工」が日本企業16社を相手取った損害賠償請求訴訟で、ソウル中央地裁は請求を却下。14日、原告側はソウル高裁に控訴した>

2021年6月7日、ソウル中央地裁民事合意34部が、戦時中の強制労働被害を主張する元労働者と遺族85人が日本製鉄・日産化学・三菱重工業など日本企業16社を相手取って損害賠償を求めた訴訟で、却下を言い渡した。訴訟要件を満たしていない場合に審理を行わずに裁判を終わらせる決定で、原告敗訴と同じ効果を持つ。

韓国最高裁が18年10月に日本企業に対して賠償金の支払いを命じた判決と真逆の判断を下したのだ。元慰安婦が日本政府を相手取って提起した訴訟で、今年1月の一次訴訟は原告勝訴、4月の二次訴訟は却下が下されており、韓国裁判所が続けて相反する決定を下したことになる。これに対し、18年10月判決で司法の独立性を主張した文在寅政府は、沈黙を守っている。

日韓基本条約の詳細は韓国国民に伝わることはなかった

旧朝鮮半島出身労働者が相次いで訴訟を起こし、20件以上が係争中だが、日本は日韓基本条約で解決済みという立場を貫いている。日本と韓国は1952年から国交正常化交渉を開始して、1965年、日韓基本条約と請求権協定などを締結した。

韓国政府は日韓併合の不法性と被徴用韓国人の未収金や補償金などの弁済を求め、日本政府は不法性を否定する一方、1910年以前に締結したすべての条約等を無効とすることを認めて、韓国に3億ドルの無償供与と2億ドルの借款を提供した。また日韓双方が1945年8月15日以前に所得した相手国に有する財産や請求権を放棄することが定められた。

韓国政府が賠償金の大半を国民に支給せず、国家建設に投入するなど、国民に条約の詳細が伝わることはなかった。協定関連文書は盧武鉉政権下の2005年8月に公開された。韓国政府は、慰安婦問題、サハリン同胞問題、原爆被害者問題は協定に含まれないが、労働者への補償は含まれるという見解を示した。また、国交正常化交渉で、慰安婦が議題に上ることはなかった。当時、韓国軍が韓国軍人や在留米軍人向けの慰安所を運営していたとも言われ、韓国政府が軍人向け慰安所の廃止を本格化させたのは1990年代だという。

司法判断の変遷をみると

政府が見解を明示した後、韓国の裁判所は元労働者の訴えを棄却したが、2012年、原告が一審と二審の棄却判決に不服を申し立てた上告審で最高裁が高裁の判決を廃棄し、差し戻しを命じて流れが変わった。

当時の金能煥(キム・ヌンファン)最高裁判事は「強制動員は日本が関与した不法行為」で、個人の損害賠償請求権は請求権協定で解決されなかったと述べた。一方、韓国外交部は「強制徴用問題は請求権協定に含まれるという政府の立場と相異する」と述べたが、18年10月、最高裁は金能煥判事に沿う判決を下した。文在寅政権は司法の独立性を主張して判決を容認した。

一方、ソウル地裁は今回の決定で、「韓国政府が徴用被害者の請求権を含めて日本に要求し交渉に臨んだため、5億ドルは請求権問題の解決に対する対価または補償の性格と考える」「個人請求権は協定で消滅したと見なすことはできないが、訴訟で行使することは制限される」と説明した。

最高裁は、請求権協定で個人請求権は消滅しないとして、日本企業に賠償金の支払いを命じる判決を下し、中央地裁は個人請求権を認めながらも日本に対して請求できないと判断したのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

クレディ・アグリコル、第4四半期は39%減益 一時

ワールド

台湾の追加防衛支出案、通過しなければ国際社会に誤解

ワールド

インド通貨、88.60─89.00ルピーまで上昇へ

ビジネス

UBS、第4四半期純利益56%増で予想上回る 自社
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 4
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 5
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 8
    最長45日も潜伏か...世界が警戒する「ニパウイルス」…
  • 9
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 10
    ICE射殺事件で見えたトランプ政権の「ほころび」――ア…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 8
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 9
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 10
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中