ワクチン接種で先行した国々に学ぶ国家戦略の重要性と、先行国が見据える未来
VACCINATION PRIDE
全員一丸英南部にあるソールズベリー大聖堂もワクチン接種会場に(1月) FINNBARR WEBSTER/GETTY IMAGES
<争奪戦の勝負は1年前に決まっていた──。コロナ後に向けて前進する優等生国家の出口戦略>
イギリスのオックスフォード郊外にあるカサム・スタジアムは、地元サッカークラブの本拠地。試合のある日は、数千人のサポーターでにぎわっていた。
しかし新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が起きてからは、押し寄せる人々ががらりと変わった。毎週最大1万人の市民がスタジアムのゲートをくぐるが、サッカーを見るわけではない。近くのオックスフォード大学の研究室でアストラゼネカ社と共同開発されたワクチンの接種を受けているのだ。
新しい観衆もサポーターに負けないくらい熱狂的だ。昨年12月に始まった市のワクチン接種は、市民も驚くほど効率よく運営されている。
「信じられなかった」と、美術史家のイザベラ・フォーブスは言う。「行列はないし、書類の記入もほとんど必要ない。ボランティアやスタッフはとても明るい顔をしていて、私も誇らしい気持ちになった」
同じ誇りをイギリス全土が感じている。賢明な意思決定と従順な国民のおかげで、イギリスは今や先進国でもごく少数の優等生だ。つまり、国民の半数以上がワクチン接種を受けている。5月下旬で接種率(少なくとも1回接種)は56%に達した。
イギリスのワクチン戦略の成功は3回にわたる厳格なロックダウン(都市封鎖)と、新型コロナ関連の死者がヨーロッパで最多の15万人超を記録したこの国の悲惨な経験の痛みを和らげている。
EUはイギリスに大きく後れを取っている
ヨーロッパの隣人たちが羨むのも無理はない。EUは全27加盟国のワクチンを確保するため指揮を執っているが、煩雑な官僚主義のせいもあり、イギリスに大きく後れを取っている。最近はスピードアップしているものの、5月下旬の接種率(少なくとも1回)はドイツが41%、イタリアが36%、フランスが35%。G7でイギリスの数字に迫る国はアメリカ(49%)だけだ。
さらに、イギリスでは感染率と死亡率が急速に低下している。第2波がピークに達した今年1月、ウイルスは1日で1800人以上の命を奪った。しかし、5月に入ると5人を下回る日も出てきた。新聞には患者が一人もいなくなった新型コロナ用の救急病棟の写真が掲載され、通常の生活が少しずつ戻り始めている。
5月17日からは国内の大部分の地域で、愛する人を抱き締め、レストランで食事をし、パブで酒を飲むことができるようになった。ボリス・ジョンソン英首相が言うとおり、「慎重に、しかし不可逆的に」封鎖が解かれていくと期待できそうだ。(編集部注:ジョンソン首相は6月14日、変異株の拡大による感染拡大を受けて封鎖解除を1カ月延期すると発表)
もっとも、世界のトップランナーの栄誉は、イギリスではなくイスラエルのものだ。イスラエルのワクチン接種は、開始当初は1日に人口の2%が受けるという猛烈な勢いで展開され、既に62%超の人が少なくとも1回目を済ませている。