最新記事

中国

バイデン対中制裁59社の驚くべき「からくり」:新規はわずか3社!

2021年6月7日(月)11時46分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

ただし、ここにおいてもトランプ政権時代のリストは4回に分けたPDFで表示してあり、しかも中国の英文企業名に対する表記の揺れがあるため、拾い上げて比較するのに相当な時間と覚悟を必要とし、困難を極めた。

その結果作成したのが以下に示す比較表である(グラフが長すぎるので印刷した場合は途中で切れてしまう可能性があり、上下二つに分けた)。

  トランプ政権とバイデン政権における対中ブラックリスト比較表

endo20210607103201.jpg

endo20210607103202.jpg
ホワイトハウスHPとDODのサイトから拾い出し、遠藤誉が作成した比較表(不許無断転載)

さて、比較表のご説明をしよう。

まず青色部分はトランプ政権時代のリストを、バイデンがそのまま引き継いだために、「変更」の欄は「保留」としてある。

黄色部分はバイデン政権になって削除された企業のリストだ。

削除理由は明確には表明されていないが、たとえばシャオミーなどは前述した通りだ。他の削除された企業の多くは国有企業で、そもそもアメリカの投資を許していないものが多い。その中で大新華航天有限公司だけは一部パン・アメリカンなどのアメリカ企業が株主となっている。それ以外は中国側が外部の投資を許してないので、構えだけ大きく見せても虚しいわけだ。

ピンクの黒字部分はバイデン政権で追加されたものだが、しかし、これらは全てトランプ政権時代の企業の子会社か親会社なので、「変更」の欄には「関連会社追加」とした。これは新たに追加されたというよりは、トランプ政権リストからの引継ぎの範疇内に入るので、「説明」の欄の色はトランプ政権リストを表すブルーにしてある。

ここが最も「インチキ」と言っても過言ではない「狡(ずる)い」ところだ。

表面上は「対中制裁59社!」と銘打って、バイデンが如何に「対中強硬」であるかをアメリカの選挙民に見せたいために、「膨らし粉」で膨らませているようなものである。このピンクとブルーの両方が入っている企業は、新たに追加された企業とみなすことは出来ない。

それを劉鶴と「コソコソと」話し合って、まるで「出来レース」のような形で署名した。

実際に新規追加された企業はわずか3社に過ぎない。

それを赤文字で最後に示した。

おまけにこの3社は一つには民営でなく国家持ち株の軍事産業そのものだったり、民営であったとしても軍や航空機関係なので、そもそも中国政府側がアメリカの資本を投入させない企業に属するものだ。

バイデンがリストに入れなくとも、最初から他国の投資を受け付けないのである。

出来レース

劉鶴とのリモート対談がバイデン政権の対中ブラックリスト発表直前に行われたことは、中国外交部の定例記者会見でも問題視され、記者からの質問を受けている。

たとえば6月4日の外交部定例記者会見では、ブルームバーグ社の記者が「中国政府は劉鶴副総理が2回もアメリカ側と通話したことを高く評価していましたが、その直後にブラックリストが発表されたことをどう思いますか?」と質問した。

それに対して外交部のスポークスマン汪文斌氏は「米中の経済貿易関係はウィン・ウィンでなければならず、共同の利益が広く存在している。問題があれば相互尊重をしながら解決していかなければならない。アメリカが経済貿易問題を政治問題化させることには断固反対する。われわれはアメリカが市場の原理を尊重し、公平公正な投資環境を形成するよう望む」と、歯切れが良くない。

本コラムで公開した比較表を作成してみて、歯切れの悪さの意味がようやくわかった。

何のことはない。出来レースだったのである。

残念ながら、バイデンの対中強硬戦略が本物であるとは、やはり思いにくい。

(なお本コラムは中国問題グローバル研究所ウェブサイトからの転載である。)

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 ジョン・レノン暗殺の真実
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月16日号(12月9日発売)は「ジョン・レノン暗殺の真実」特集。衝撃の事件から45年、暗殺犯が日本人ジャーナリストに語った「真相」 文・青木冨貴子

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中