最新記事

台湾

コロナ封じ込め「デジタル監視」を台湾人が受け入れる理由

TAIWAN’S WIN EXPLAINED

2021年4月16日(金)16時45分
マルク・マーミノ、レイン・バンデンバーグ(共にロンドン大学キングス・カレッジ博士課程)

ホテルの部屋を8秒間離れだけで3550ドル

それにも増して重要なのが「電子フェンス」と呼ばれる新技術の適用だ。隔離措置の対象者に台湾製SIMカードを差し込んだ携帯電話を渡し、その携行を義務付け、確実に居場所を特定できるようにした。

隔離施設を離れると、すぐに中央感染症指揮センター(CECC)がメールや電話で警告してくる。対象者の健康状態の確認にも使われている。

CECC以外の政府機関も、電子フェンスを通じて隔離中の人に定期的に連絡を取る。電話に出ないと職員が隔離先に出向き、所在や様子を確認する。隔離中に携帯電話の電池が切れてしまった大学生シェ・ミロの場合、1時間以内に4つの行政機関から担当者が駆け付けたという。

欧米諸国と同じく、台湾でも隔離を破れば罰金を科される。最高額は3万5000ドルで、有名なケースではホテルの部屋を8秒間離れ、廊下を6歩ほど歩いただけで3550ドルを科されている。

しかし罰金を科された例は1000件に満たず、隔離の遵守率は推定99.7%。だからこそ253日連続で国内感染ゼロという記録も達成できた。

いくら高度な技術を用いても、住民が政府の施策とデジタル監視のシステムに従わない限り感染者を減らすことはできない。

欧米社会には収集される個人情報とその利用方法に対する懸念もあるが、台湾では大きな問題になっていない。世界的に悪名高いGPSではなく、いわゆる「三角測量」を利用して位置情報を把握しているせいもあって、住民の抵抗感は薄いとされる。

なぜ東アジアでは、政府による住民のデジタル監視が(欧米諸国に比べて)受け入れられやすいのか。これは興味深い問題で、過去に権威主義な体制が続いたことや、儒教の影響もあるとされる。

ただそうした文化面を強調し過ぎるのは偏見であり、防疫政策の真の成功要因を見えにくくするとの批判もある。

台湾の人々が当局の要請に従い、デジタル監視を受け入れている背景にあるのは、むしろSARSなどの疫病の経験や、民主主義の柱としてテクノロジーを取り入れ、高い透明性を維持している政府への信頼だ。

これらの相乗効果で、新型コロナウイルスの襲来時には独特な政治風土が出来上がっていた。

台湾の政治風土は中国大陸との関係に深く影響されてきた。馬英九(マー・インチウ)総統時代(2008〜2016年)は、安全保障上のリスクを考慮して中国との経済関係を深めようとした。これに対する反発が顕在化したのが、2014年の「ヒマワリ運動」だった。

その後の蔡英文(ツァイ・インウェン)政権(2016年〜)は住民の声に耳を傾け、住民を巻き込む施策を導入してきた。SNSなどを活用して意見の表明を促し、集めたファクトを公表し、多様な利害関係者を集めたフォーラムを開催したりしている。

【関連記事】日本だけじゃない...「デジタル後進国」のお粗末過ぎるコロナ対策

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 7
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中