最新記事

アジア

「日本のお金で人殺しをさせないで!」ミャンマー国軍支援があぶり出した「平和国家」の血の匂い

2021年4月9日(金)17時52分
永井浩(日刊ベリタ)

各党が、米国や欧州などの国際社会と歩調を合わせてミャンマー国軍への強い姿勢を示すよう政府に要求することじたいは、間違っていない。だがいまひとつ腑に落ちないのは、その前提として日本独自の主張、つまり平和憲法の精神の尊重という視点が打ち出されていないことである。なぜなのか。

理由のひとつは、戦後日本の平和に血の匂いがひそんでいた事実に、私たちが気づこうとしなかったことと無関係ではないだろう。私たちの平和と繁栄にアジアの人びとが流した血が流れ込んでいたのは、ミャンマーの軍政と民主化とのたたかいが初めてではない。

ベトナム戦争(1960~75年)で、日本政府はベトナムを侵略した米国を日米安保条約を理由に支持した。だが、共産主義の悪から自由と民主主義を守るためとする米国の戦争の大義が、南北ベトナムの焦土化と無差別攻撃による住民の遺体の山の上に築かれようとしている実態が明らかになると、世界各地で反戦運動がひろがった。日本でも「ベトナム反戦」の国民の声がたかまった。しかし、この戦争で日本が莫大な戦争特需にあずかり、それが東京五輪後の不況克服に大きく貢献し、さらに日本が米国につぐ世界の経済大国への階段を駆け上がっていく道をひらいた事実には、ベトナムの平和を訴える多くの日本人はきちんと向き合おうとしなかった。

日本の経済発展が私たちの汗の結晶であることは間違いないが、その一部に日本が支持した米軍によって流されたベトナム人の血が流れこんでいることに私たちは気づこうとしなかったが、アジアの人たちはそのような日本のすがたを見逃さなかった。

日本が戦後、アジアから留学生や研修生を受け入れはじめたとき、「アジア文化会館」理事長として彼らと起居をともにして親身に世話し、「留学生の父」と敬愛された穂積五一氏は、ベトナム戦争への日本の対応をめぐる留学生たちの忠告を記している。「日本は終始、米国に追従し、『平和』を口にしながら、ベトナム人民の流血をよそにひたすら『利』を求めつづけていた。その『狡さ』と『穢らわしさ』は米国にまさっている。目を覚ましてください」

日本は1950年からはじまった朝鮮戦争でも、米軍の兵站基地として特需に沸き、戦後復興を予想外の速さで達成することに成功した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルのソマリランド国家承認、アフリカ・アラブ

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中