最新記事

オーストラリア

洪水でクモ大量出現、世界で最も危険な殺人グモも:シドニー

2021年4月8日(木)17時45分
青葉やまと

殺人グモの名は決して誇張ではなく、過去に累計13名の死者を出している。また、近年では2017年、シドニーの少年が指を噛まれ生死の瀬戸際をさまよった。オーストラリアの医療史上で最大量となる12瓶分の血清の投与を受け、辛うじて生き延びている。

問題のジョウゴグモは黒色ないし茶褐色のクモで、体長は最大で5センチほど、脚部を含めた全長は10センチほどに及ぶ。鋭い牙を持ち、性格は攻撃的だ。強い神経毒を有し、噛まれると軽微な場合で嘔吐や腹痛、重症になると筋肉のけいれんや呼吸困難などの症状が現れ、最悪の場合は死に至る。

住居内での目撃例も多く、在宅中でさえ致死性の毒に襲われる可能性がある。爬虫類パークのフォークナー園長は洪水に伴い、「彼ら(ジョウゴグモたち)が住居に侵入することになる可能性があります」と懸念を示していた。

オーストラリアではクモの繁殖期に入ると当該種の目撃情報も増えるのが通例で、以前には洗濯物かごに積まれた衣類のすきまやゴミ箱の陰、そして脱いでおいた靴のなかなど、生活と密接に関わるシーンで目撃されている。また、シドニーに留まらず、近郊の大都市圏であるニューカッスルやウロンゴンなどでも目撃の報告が増えている。

市民協力で数十匹が捕獲

洪水後はラムジー氏の予想通り、非常に多くのシドニージョウゴグモ個体が目撃された。捕獲されたものだけでも、その数は数十に及ぶ。ラムジー氏はスカイニュースのインタビューに対し、3月下旬の2日間だけで50匹を超えるシドニージョウゴグモが捕獲され園に寄贈されたと述べている。

シドニージョウゴグモからは、血清の原料となる成分を抽出することができる。そのため、園は腕に自信のある人は捕獲に協力してほしいと呼びかけていた。問題のクモは滑らかな面を登ることができないため、ガラスまたはプラスチック製の深めの食品保存容器などで捕獲することができる。

オーストラリアでは累計13例の死亡例が記録されているが、80年代に血清が開発されてからは、幸いなことに死亡事故は起きていない。毎年30名少々が噛まれる被害に遭うが、ここ数年では死亡に至った例は確認されていない。とはいえ、ラムジー氏は警戒を怠らないようにと呼びかけている。朝になって靴を履こうとした時に、その中に潜んでいるケースなどがあるようだ。

今回の一件は個体数が増えたわけではなく、平時から存在している個体が洪水に伴って住居まで上がってきたものだ。洪水の収束に伴い、事態は沈静化の兆しを見せている。同時に、裏を返せばシドニー近郊の地表付近には殺人グモが常時生息しているのだという状況を改めて印象付ける結果となった。

●参考記事
今年4月以降、米国で数十億匹のセミが発生する、との予測
米フロリダ州に座礁したクジラは新種だった
ヘビ? トカゲ? 進化の過程で四肢をなくし、再び取り戻した例外的な生物

Spiders Take Refuge on Backyard Fence Amid New South Wales Floods


Sydney issues spider warning: Funnel-web's emerge after heavy rainfall

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州10銀行、ユーロ連動ステーブルコインの新会社設

ビジネス

豪GDP、第3四半期は前年比2年ぶり大幅伸び 前期

ビジネス

アンソロピック、来年にもIPOを計画 法律事務所起

ワールド

原油先物は続落、供給過剰への懸念広がる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 6
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中