意識障害、感情の希薄化、精神疾患...コロナが「脳」にもたらす後遺症の深刻度
HOW COVID ATTACKS THE BRAIN
神経疾患の解明は長期戦に
こうした仮説をはじめ、新型コロナの研究では多くの仮説が提唱されているが、それらを検証する作業は始まったばかりだ。
デエラウスキンらは新型コロナが脳の機能に及ぼす長期的な影響について研究を進める必要があると訴えているが、なかなか理解されず研究資金の確保に頭を痛めている。ただ、希望は持てる。最近ではメディアも、長期にわたって続く新型コロナの後遺症や、ウイルスが体内から排除されても残る奇妙な神経症状を取り上げるようになった。
デエラウスキンらは今年1月、後遺症の大規模な国際的調査の計画案を発表した。30カ国余りの最大4万人を対象に新型コロナが脳に及ぼす長期的な影響を調査する計画で、当初は米アルツハイマー病協会が資金を提供し、WHO(世界保健機関)も協力する。将来的には各国の公衆衛生当局の支援も期待できそうだ。
NIHは新型コロナ関連の研究調査に約15億ドルを助成する方針だ。コロシェッツによると、「正常な回復」の要件を突き止め、長期にわたって後遺症が残るケースとの違いを明らかにする大規模な研究計画も助成対象の候補に挙がっている。
岩崎によれば、こうした研究に向けて、ニューヨークのマウント・サイナイ病院チームなど新型コロナの後遺症に苦しむ患者を多数扱ってきた4カ所の医療施設の研究チームがデータの収集方法を確立し、手順を標準化する作業を進めている。
新型コロナでは条件が許せば発症初期の段階から調査を開始し、ウイルスが検出されなくなっても長期間続く症状を追跡できる。その成果は、CFSなど原因不明の脳の疾患の謎を解く貴重な手掛かりになると、NINDSのナスは期待している。
ただし、答えがすぐに出るわけではない。「いい例がアルツハイマー病だ。毎年何十億ドルもの予算を投じて、何十年も研究が行われてきたが、いまだに治療法はおろか、診断方法も確立されていない」
脳の病気は謎だらけだ、とナスは言う。「長期戦を覚悟しないと」