最新記事

新型コロナウイルス

意識障害、感情の希薄化、精神疾患...コロナが「脳」にもたらす後遺症の深刻度

HOW COVID ATTACKS THE BRAIN

2021年4月2日(金)11時29分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

210323p18_CTN_05.jpg

ワクチン接種の会場となったロサンゼルスのドジャー・スタジアムには接種を希望する人たちの車の列ができた(1月) MARIO TAMA/GETTY IMAGES


神経疾患の解明は長期戦に

こうした仮説をはじめ、新型コロナの研究では多くの仮説が提唱されているが、それらを検証する作業は始まったばかりだ。

デエラウスキンらは新型コロナが脳の機能に及ぼす長期的な影響について研究を進める必要があると訴えているが、なかなか理解されず研究資金の確保に頭を痛めている。ただ、希望は持てる。最近ではメディアも、長期にわたって続く新型コロナの後遺症や、ウイルスが体内から排除されても残る奇妙な神経症状を取り上げるようになった。

デエラウスキンらは今年1月、後遺症の大規模な国際的調査の計画案を発表した。30カ国余りの最大4万人を対象に新型コロナが脳に及ぼす長期的な影響を調査する計画で、当初は米アルツハイマー病協会が資金を提供し、WHO(世界保健機関)も協力する。将来的には各国の公衆衛生当局の支援も期待できそうだ。

NIHは新型コロナ関連の研究調査に約15億ドルを助成する方針だ。コロシェッツによると、「正常な回復」の要件を突き止め、長期にわたって後遺症が残るケースとの違いを明らかにする大規模な研究計画も助成対象の候補に挙がっている。

岩崎によれば、こうした研究に向けて、ニューヨークのマウント・サイナイ病院チームなど新型コロナの後遺症に苦しむ患者を多数扱ってきた4カ所の医療施設の研究チームがデータの収集方法を確立し、手順を標準化する作業を進めている。

新型コロナでは条件が許せば発症初期の段階から調査を開始し、ウイルスが検出されなくなっても長期間続く症状を追跡できる。その成果は、CFSなど原因不明の脳の疾患の謎を解く貴重な手掛かりになると、NINDSのナスは期待している。

ただし、答えがすぐに出るわけではない。「いい例がアルツハイマー病だ。毎年何十億ドルもの予算を投じて、何十年も研究が行われてきたが、いまだに治療法はおろか、診断方法も確立されていない」

脳の病気は謎だらけだ、とナスは言う。「長期戦を覚悟しないと」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独メルセデス、安価モデルの米市場撤退検討との報道を

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中