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日本の対ミャンマー政策はどこで間違ったのか 世界の流れ読めず人権よりODAビジネス優先

2021年4月7日(水)06時30分
永井浩(日刊ベリタ)

しかし、開発独裁はしだいにほころびが目立ってきた。「経済発展には民主化が不可欠」とするスーチー氏の主張は、それがミャンマーでも例外ではないことを指摘するものだった。

開発の時代から民主化の時代へ

上からの経済開発はたしかに各国のGNP(国民総生産)の増大をもたらした。工業化への「離陸」に成功したタイやインドネシアは中進国、シンガポールは先進国へと成長、韓国も「漢口の奇跡」とよばれる高度成長をとげた。だが開発のバランスシートもあきらかになってきた。富の不平等な分配による貧富の格差の拡大、環境破壊、地域共同体の解体、エイズの急増などの諸問題が深刻化していったが、それらの解決をもとめる国民の声は権威主義的な政治体制によっておさえ込まれた。国民はこれまでの開発概念の問い直しをはじめた。

これまでの開発は、工業化による経済成長によって国民の物質的な充足をめざしてきたが、そのために人間は成長のための手段としかみなされず人権は尊重されなかった。そうではなく、人間の発展こそが開発の目的であり、開発はそのための手段であるはずであるという、新しい開発理念が提唱されるようになった。この目標を実現するには、軍人や権威主義的政治家、官僚主導の開発独裁にかわって、すべての国民が開発過程に参加できる新しい政治モデル、つまり民主主義体制が確立されなければならない。経済成長至上から、開発・環境・人権・民主化・ジェンダーの両立する発展をめざす運動が各国で盛り上がってきた。

その担い手も、開発独裁体制下での民主化運動の中心だった学生、市民、知識人だけでなく、経済発展とともにうまれてきた新興ビジネスエリート、都市中間層、開発の恩恵から取り残された農民や都市貧困層へと多様化し、社会的弱者の声を代弁するNGO(非政府組織)も成長してきた。

タイではすでに1973年の「学生革命」によって軍部主導の開発独裁体制が打倒され、民主化の時代をむかえた。民主化はその後、軍部の反撃で冬の時代に入るが、国民各層の粘り強い抵抗によって少しずつ前進をつづけた。フィリピンでは86年、マルコス独裁政権が「ピープルパワー」によって打倒され、民主化をめざすアキノ政権が誕生した。韓国では87年、盧泰愚大統領が民主化宣言を発表、長年にわたる権威主義体制から民主主義への移行が開始された。88年にはミャンマーで広範な国民が民主化運動に立ち上がった。中国でも89年、共産党の一党独裁による開発独裁と腐敗に抗議する学生、市民らが民主化をもとめる行動に立ち上がり、北京の天安門広場に結集した彼らが人民解放軍によって弾圧される天安門事件が起きた。

経済発展と民主化にかんするスーチー氏の発言に私が同感したのは、こうしたアジアの民主化への胎動を知っていれば当たり前の反応だった。また彼女がおなじインタビューで軍事政権の市場経済化政策についてこう答えたのも、各国の民主化がめざす新しい発展モデルと通底している。

「軍事政権のかんがえる開発とは、統計数字だけを問題にし、人間の価値は尊重していません。労働者は劣悪な条件で長時間労働を強いられ、単なる労働資源としかみなされていません」

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