最新記事

アジア

日本の対ミャンマー政策はどこで間違ったのか 世界の流れ読めず人権よりODAビジネス優先

2021年4月7日(水)06時30分
永井浩(日刊ベリタ)

経済開発のために、各国指導者は外資の積極的導入による輸出志向型工業化を進めた。米国、日本などの西側先進国からの援助と投資を積極的に受け入れると同時に、一次産品などの先進国への輸出で外貨を獲得した。また、外資の投資環境整備のため強権による政治的安定がはかられ、民主主義の抑圧、野党の弱体化、共産党の非合法化が進められた。

外資のなかでも東南アジアで大きな存在感をしめしたのが、日本だった。敗戦の荒廃から立ち直り復活した日本資本主義は、新たな市場を国内から東南アジアにもとめはじめ、各国への戦争賠償を利用して市場進出の道筋をつけると、戦争賠償の終了とともにODAを各国に重点的に供与した。インドネシアを筆頭にASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国への供与額は、日本の世界全体のODA供与額の半分以上となった。ミャンマーはASEAN加盟国ではなかったが、日本が最大の援助供与国となった。[
ODAは道路や港湾、空港、工業団地、発電所などインフラ整備のための大型プロジェクトを中心に投与され、それが各国の経済開発に貢献したことは事実だが、同時に日本にとっても「金のなる木」であった。プロジェクトの青写真は日本の商社などが描いて相手国政府にしめす場合が多いといわれ、プロジェクトは日本企業と現地の有力企業が受注した。それとともに、ODAビジネスの利権をめぐる日本の政治家や企業と独裁政権のトップとそのクローニー(取り巻きの政治家、財界人)との間の汚職、腐敗が指摘されるようになる。1986年のマルコス政権、98年のスハルト政権の崩壊後、援助がらみの不正蓄財とみられる「マルコス疑惑」、「スハルト疑惑」が政治問題化した。

日本の経済援助を米国も支持した。供与国はいずれも反共国家であり、指導者は民主主義を抑圧する独裁者であっても、経済発展がすすむことは冷戦体制下で共産主義にたいする優位をしめすことになるからである。米国は独裁政権下の人権、民主主義の侵害に目をつむった。また、ODAがアジア諸国の経済発展に貢献しているという政治家や開発経済学者らの言説は、戦前からの日本の「アジアの盟主」意識をくすぐった。スハルト、マルコス、タイの開発独裁の指導者たちは、日本では「親日」と呼ばれた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中