最新記事

BOOKS

暴力団は残るも地獄、辞めるも地獄。一般人はそれを「自分には関係ない」と言えるか

2021年3月30日(火)20時10分
印南敦史(作家、書評家)
『だからヤクザを辞められない』

Newsweek Japan

<『だからヤクザを辞められない』の著者は、元暴力団員から生きる権利を剥奪するのは行き過ぎではないかと指摘し、疑問を投げ掛ける>

『だからヤクザを辞められない――裏社会メルトダウン』(廣末 登・著、新潮新書)の著者は研究者であり、ノンフィクション作家。暴力団の研究に携わるなか、知り合った元暴力団員や現役の組員から「暮らしにくい世の中になった」と聞くようになったと振り返る。

兆候が見えはじめたのは、暴力団排除条例が福岡県で最初に施行され、全国の自治体がそれに倣って暴排強化を始めた2010年以降のこと。「元暴5年条項」によって社会権を制約された暴力団離脱者の姿だった。


 人間が生きるためには衣食住を確保しなければならず、それには日々働く必要があります。しかし、この条項によって銀行口座が作れない、家も借りられないときては、憲法で保障された健康で文化的な生活を営むことができません。暴排機運の高まりでシノギが激減するなか、暴力団は残るも地獄、辞めるも地獄という状況が進行しており、彼らの間には右往左往せざるを得ない混乱が生じていました。(「はじめに」より)

著者は暴力団を肯定したいわけではないと言うが、それは一般的な感覚でもあるだろう。とはいえ、「かつて暴力団に属していたから」というだけで生きる権利を剥奪されるとしたら行き過ぎに思える。

生きる権利は誰にでもある。もしも「もう手段がなく、野垂れ死ぬしかない」という状況に追い詰められたら、生きていくために再び犯罪に手を染める人間が出てきてもおかしくはない。

「暴力団を辞めたのに仕事に就けなかったとしても、それは自業自得。自己責任だ」という考え方も当然あるだろう。

ただし、そう主張する人は、自身が「半グレ」や「元暴アウトロー」による犯罪の被害に遭ったときに文句を言えないのではないか。

そういう意味でも、「やったやつが悪いのだから、自分には関係ないから」という考え方は大きな勘違い。接点がないように見えて、彼らと我々は間接的にどこかでつながっているのだ。

本来であれば教わるべき規則正しい生活の訓練が欠如していた

元暴アウトローの問題を、多少なりとも私たちは"自分ごと"として考える必要がありそうだ。そして、考えるに際して無視できないのは"社会的ハンデ"の問題である。


 そもそも犯罪者となった彼らでも、平和に、楽しく、希望をもって生活したいという願いがないわけでは決してありません。けれども彼らの多くは、生まれながらにして何らかの社会的ハンデ(貧困、家庭環境の不遇、虐待・ネグレクトなど)があり、真っ当に生きることができなかった人たちが圧倒的に多いという現実があります。(38ページより)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン外務次官、核開発計画巡る交渉でロシアと協議 

ビジネス

トランプ関税で実効税率17%に、製造業「広範に混乱

ワールド

米大統領補佐官のチーム、「シグナル」にグループチャ

ワールド

25%自動車関税、3日発効 部品は5月3日までに発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中